「いいんですか?」
「ぜひ。作り過ぎちゃって、はじめはいろんな人がもらってくれたけど、だんだんいい迷惑な気がしてきて」
「迷惑だなんて、全然」
「よかった。他にもたくさんあるの。でね、編んでは写真を撮ってる」
と、コートのポケットからスマホを取り出して、次々と見せてくれた。
それはなんとも言えない可愛らしい顔ぶれだった。緑やピンク、縞々の子もいる。頭の飾りも、三角帽子や三つ編み、ドーナツを載せた子もいる。
「こんなのが作れちゃうなんて、すごい」
「簡単なの。でも心が落ち着くっていうか。大作じゃないからかな。一日一人生まれてくれるから」
「楽しそうだな。次々生まれてきてくれるんですね」
デニムの膝が濡れて、自分が泣いているのに気づいた。生まれてくることを、喜ぶ気持ちすら、自分は忘れかけていたようにも感じた。
「理玖、指人形いただいたよ。よかったね」
と、自分の指につけて動かすと、また手を伸ばしてきた。
「すっかり気に入ったみたいです」
「嬉しいな、リクくん、いい子」
と、その人は言った。
彼女のスマホのアラームが鳴った。
「もう、戻らなきゃ。よかったら、またここで会いましょう。毎週、月と金は、晴れていたらよくここに来ている。毛糸とかぎ針があったら、あなたもすぐに編めるよ。なんて、押しつけちゃいけないか」
「紅茶も、持ってきます」
「ごめん、自分のカップしかなくて」
私は首を横に振った。たぶん、笑っていたと思う。
緑色のパペットくん、彼の名前はなんとしようか。
いつか、もしかしたら来年か再来年には、理玖とそんな話だってできるのかもしれない。それが、成長を楽しみにすることなのだ。
理玖に並んで体を横たえる。指先につけたパペットの目玉が、くるくる動き続けている。
「こんにちは、理玖のママ」
どこからそんな声が出るのだろう。
「おやすみ、パペットくん」
灯りを消すと、薄いカーテン越しに月明かりが鈍く部屋を照らしていた。
理玖の額が輝いて見えた。
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