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2021.12.29

ママパパの生活

うさぎの耳〈第一話〉緑色のパペット|谷村志穂

photo by Nakamura Akio



「いいんですか?」

「ぜひ。作り過ぎちゃって、はじめはいろんな人がもらってくれたけど、だんだんいい迷惑な気がしてきて」

「迷惑だなんて、全然」

「よかった。他にもたくさんあるの。でね、編んでは写真を撮ってる」

と、コートのポケットからスマホを取り出して、次々と見せてくれた。

それはなんとも言えない可愛らしい顔ぶれだった。緑やピンク、縞々の子もいる。頭の飾りも、三角帽子や三つ編み、ドーナツを載せた子もいる。

「こんなのが作れちゃうなんて、すごい」

「簡単なの。でも心が落ち着くっていうか。大作じゃないからかな。一日一人生まれてくれるから」

「楽しそうだな。次々生まれてきてくれるんですね」

デニムの膝が濡れて、自分が泣いているのに気づいた。生まれてくることを、喜ぶ気持ちすら、自分は忘れかけていたようにも感じた。

「理玖、指人形いただいたよ。よかったね」

と、自分の指につけて動かすと、また手を伸ばしてきた。

「すっかり気に入ったみたいです」

「嬉しいな、リクくん、いい子」

と、その人は言った。

彼女のスマホのアラームが鳴った。

「もう、戻らなきゃ。よかったら、またここで会いましょう。毎週、月と金は、晴れていたらよくここに来ている。毛糸とかぎ針があったら、あなたもすぐに編めるよ。なんて、押しつけちゃいけないか」

「紅茶も、持ってきます」

「ごめん、自分のカップしかなくて」

私は首を横に振った。たぶん、笑っていたと思う。



うさぎの耳緑色のパペットくん、彼の名前はなんとしようか。

いつか、もしかしたら来年か再来年には、理玖とそんな話だってできるのかもしれない。それが、成長を楽しみにすることなのだ。

理玖に並んで体を横たえる。指先につけたパペットの目玉が、くるくる動き続けている。

「こんにちは、理玖のママ」

どこからそんな声が出るのだろう。

「おやすみ、パペットくん」

灯りを消すと、薄いカーテン越しに月明かりが鈍く部屋を照らしていた。

理玖の額が輝いて見えた。

▶次の話 うさぎの耳〈第二話〉そばかすパペット

撮影/中村彰男 校正/岡村美知子

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谷村 志穂 作家

北海道札幌市生まれ。北海道大学農学部卒業。出版社勤務を経て1990年に発表した『結婚しないかもしれない症候群』がベストセラーに。03年長編小説『海猫』で島清恋愛文学賞受賞。『余命』『いそぶえ』『大沼ワルツ』『半逆光』などの多くの作品がある。映像化された作品も多い。

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