つわりは一体いつごろになったら終わるのでしょう? ゴールがわかれば、少しでも気持ちが軽くなります。また、「なかなかつわりが終わらない」「前より吐きけが軽くなったけど、これは終わりの兆候?」と、人によって気になることもさまざま。そんな疑問に産婦人科医の楠木総司先生がお答えします。
つわりとは? なぜ起こるの?
つわりとは、妊娠初期に起こるさまざまな不快症状(吐きけや嘔吐、眠けなど)のことです。
多くの妊婦さんに共通してあらわれる症状が、吐きけです。二日酔いや船酔いで起こるあの気持ち悪さが長期間続くのをイメージすると、そのつらさが少しは伝わるかもしれません。
つわりが一体どうして起こるのかくわしいことは未だに解明されておらず、諸説あります。そのうちの一つが、「妊娠によってホルモンのバランスに変化が生じ、脳の嘔吐中枢が刺激されてつわりが起こるのではないか」という説です。
つわりの症状が起こる妊娠初期は、胎盤が作られ始める時期と重なります。この時期にふえるのがhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンです。hCGは、妊娠を維持するうえで重要な役割を担うホルモンで、このhCGの値が高いとつわりが重くなる傾向にあります。
また、妊娠に伴って起こる体と心の変化は、自律神経のバランスが乱れることとも深くかかわっており、眠け、だるさ、めまいなどのつわり症状を引き起こす要因とされています。
嗜好の変化が生じる妊婦さんも多く、「前は大好きだった食べ物が、つわり中は見るのもいやになった」「妊娠前はあまり口にしなかったスナック菓子をむしょうに食べたくなった」などという話をよく耳にします。
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つわりはいつからいつまで続く?
つわりは、妊娠5週くらいから始まって16週ごろまで続くのが一般的とされています。
ただし、つわりの期間がいつからいつまで続くかは個人差がありますので、5週〜16週はひとつの目安ととらえましょう。4週ごろに始まる人もいれば、16週を待たずに終わる人や16週を過ぎても終わらない人もいます。
つわりのピークはいつごろ?
つわりのピークにも個人差はありますが、だいたい妊娠10週前後とされています。「9〜12週ごろが一番つらかった」と振り返る妊婦さんが多いようです。
それまでは、「軽い吐きけはあるものの特につらさを感じない」「妊娠前と変わらず食事ができる」と言っていた妊婦さんでも、つわりのピーク時には「水を飲んでも吐いてしまう」「起きていても横になってもつらい」という状態になってしまうことがあります。
hCGの分泌量がピークに達するのもちょうどこの時期で、ピークを境にhCGの分泌量は減り始め、日がたつにつれてつわりの症状もだんだん軽くなっていくのが一般的です。
つわりの終わりの平均的な時期は?
つわりが終わるのは、平均的に妊娠16週ごろとされています。
この時期は、いわゆる「安定期」と呼ばれ、胎盤の形成がほぼ完了し、おなかのふくらみが徐々に目立ち始めるころでもあります。
つわりの終わりかけの兆候や症状は?
つわりの症状が人によって異なるように、つわりの終わり方も人それぞれです。どんな兆候があるかも妊婦さんによってさまざまですが、大きく分けると次のようなパターンに分かれるようです。
つわりの終わりかけの兆候
だんだん終わりに向かうパターン
つわりの症状が少しずつ軽くなって、「そういえば、前にくらべて吐く回数が減ったかも?」「きょうは、食後あまりムカムカしない」と感じるようになってだんだん終わっていくパターンで、多くの妊婦さんに見られます。
ぶり返しながら終わるパターン
症状が軽くなったかと思うと、またひどくなるといったぐあいに、つわりのぶり返しが起こることもあります。ぶり返しのサイクルも数日であったり、数週間であったりとまちまちで、何度か繰り返したあとに終わりを迎えることもあります。
急に終わるパターン
比較的少数派ではありますが、きのうまでときょうの体調の違いがはっきりわかるほど、つわりが急に終わったという人もいます。
つわりが終わるのはうれしいものですが、それがあまりに突然だとそれはそれで心配になってしまうもの。ほかに異変がなければ問題のないケースがほとんどですが、少しでも気になるようでしたら受診しましょう。
つわりの終わりかけに起こる諸症状
ピーク時にくらべると吐きけが軽くなったと思いきや、つわりの終わりかけの時期に頭痛、胃もたれ、下痢などの諸症状に悩まされる人もいます。これらは、つわりが起こる妊娠初期と安定期に入る妊娠中期の途中に起こりやすいことから、おそらくホルモンバランスの乱れが関係していると考えられます。
妊娠初期の段階で盛んに分泌されていたhCGは、胎盤の形成が完了するにつれて徐々に減ってきます。
これと入れかわりのタイミングでふえてくるホルモンが、hPL(ヒト胎盤性ラクトゲン)です。hPLは脂質の分解を促し、妊婦さんと赤ちゃんに栄養を届ける役割を担っています。なおかつ、妊婦さんがとり入れた栄養を赤ちゃんにどれくらい分配すればいいかを調節する機能があり、妊婦さんの代謝に大きく影響します。
さらに妊娠中期は、エストロゲンとプロゲステロンというホルモンの分泌量がふえる時期でもあるため、ホルモンバランスに変化が生じやすく、体調にもさまざまな影響が出やすくなるというわけです。
流産したらつわりが終わるの?
ある日突然、つわりの症状がおさまる人もいますが、流産した場合もつわりの症状はおさまります。
そのため、つわり症状がなくなると同時に、下腹部の張りや痛み、出血などがあった場合は要注意です。すぐに受診しましょう。
つわりがつらいときの対処法
「つわりがつらいのは、赤ちゃんが元気に育っている証拠」とよく言われます。これには、医学的根拠はないものの妊婦さんがつわりを乗り切るうえで、ひとつの励みになることは確かです。
個人差があるとはいえ、「つわりはいつか終わる」ものです。次にあげる対処法をいろいろ試しながら、つらい時期を乗り切りましょう。
食べると気持ち悪くなる
妊婦さんにとってのNG食品(生の肉や魚、フレッシュチーズなど)を避けながら、「食べられるものを食べられるときに、食べられるだけ」を心がけましょう。つわりの時期は、栄養面にとらわれすぎなくてもOKです。
空腹時に吐きけを催す
ポイントは、一度に食べる量を少なくして食べる回数をふやすこと。起床時の空腹対策には、枕元に食べ物を準備して寝るといいでしょう。
においが気になる
自分の苦手なにおいをなるべく遠ざけるようにしましょう。マスクを活用するのもおすすめです。
眠くてたまらない
ストレッチをする、ガムをかんでみるなど、気分転換や眠け覚ましの方法をいろいろ試してみましょう。
よだれが出る場合の対処法
よだれをティッシュに含ませ、サッと捨てられるようにジッパー付きの袋を持ち歩くなどくふうしてみましょう。
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つわりが終わらない人もいるの?
まれに、「出産までずっとぐあいが悪かった」「程度に差はあっても、ムカムカがおさまることはなかった」という妊婦さんもいます。
このような妊婦さんの訴えをくわしく聞いてみると、妊娠初期のつわり症状とはまた別の妊娠中期以降に起こる胃の不調であるケースがほとんどです。
これは、赤ちゃんが成長するにつれて子宮が大きくなり、胃を圧迫するために起こる不調なのですが、妊婦さんにとってつらさに変わりはありません。そのため、「ずっとつわりが続いて、終わらない」と感じられるようです。
繰り返しになりますが、つわりは症状、期間ともに個人差があって当然です。また、妊娠中期以降の胃の不調を一概に「つわりではない」と断言することもできません。
つわりとつわり以外の不調には明確な区別がつけられないケースもありますので、あまり情報に惑わされず、その時々の自身の体調に応じてケアすることがたいせつです。そして、少しでも心配なことがあれば、医師に相談しましょう。