精神科医で産業医の井上智介氏によれば、近ごろ増えているのが、幼児や小学生の子どもを育てるパパ&ママからの相談。
育児に疲れ果て、「つい子どもにイライラして怒ってしまう」「正直手をあげてしまうこともある」と打ち明け、どの人も「自分は毒親かもしれない」と悩んでいるのだとか。
では、愛すべき子どもに対して、なぜ毒親になってしまうのか、自分が毒親にならないためにはどうすればいいのでしょうか?井上氏の著書『毒親になりそうなとき読んでほしい本』より、そのヒントを連載でご紹介します。
前回のテーマは、「毒親に育てられた人が陥りがちな虐待の連鎖」について。
➤➤あなたの親は毒親の可能性が!?その異常性に気づかせてくれる「2つの質問」今回は、そんな「虐待の連鎖」を断ち切るためのステップについてお伝えします。
ステップ1:悪いのは自分ではなく親
自分の親が毒親だと、自分も毒親になる可能性が高いことを繰り返しお伝えしてきました。でも、もうそろそろ虐待の連鎖を断ち切りませんか。ここでは、その具体的な方法をお伝えしていきます。その手順は、3ステップで考えていきます。
ステップ1では、いま自分が生きにくいのは「親のせい」であることを認識します。毒親育ちで精神的な不調を抱えている人は、子どものころから、ずっと親に自分のことを否定されつづけているので、いつも自分が悪いと思っています。
実際は親の不適切な接し方が原因なのに、自分がしっかりしていなかったから、いい子じゃなかったからと言って、どうしても親のせいにできません。まわりから見たら明らかなのに、本人にはしっくりこないのです。
そもそも毒親は、子どもを条件つきで愛しますが、子どもから親への愛は無条件です。だからこそ親を悪く言うことに大きな葛藤や抵抗があるのです。
私が「あなたの親はおかしいですよ」と患者さんに言っても、「そういうことを言うのはやめてください」と言う人は多いです。「大学まで行かせてもらった」「いまも帰ったら、ごはんを作ってくれる」といったことも、患者さんはよく言われます。
たしかにいくら毒親でも、やさしいときももちろんあって、100%悪いわけではありません。しかし、あなたの親は、あなたの心をコントロールしようとして、その結果、あなたは苦しくなって、いろいろな症状が出ているんですよ、ということを一つ一つ伝えていきます。
誰もが自分の家庭をそんなに悪くないと思いたいです。しかし実際は自分の家庭や親のかかわり方に問題があって、いま不調が出て、子育てにも支障が出ているのです。
それを受け入れることが最初のステップであり、いちばん時間のかかるところです。なかには、何十年とかかる人もいます。しかし自分の傷を癒やして、自分自身の子育てに正しく向き合うには、ここがいちばん重要なところですから、まず「悪いのは自分でなく親」ということをしっかり認識するようにしましょう。
ステップ2:親の背景を理解する
そうして、なんとか「親のせい」と理解できたら、今度は親に対する怒りや腹立ちなど、自分の心の中はネガティブな感情でいっぱいになってきます。それを爆発させる前にやってほしいのが「親の背景を理解する」ことであり、これがステップ2です。
やはり親が毒親になってしまうのは、性格だったり病気だったり、親自身も虐待を受けていたりと、いろいろな問題があったわけです。だからといって親を許す必要はまったくありませんが、自分のイライラを少しでも抑えるためには、親自身にもそういう背景があったことを理解しようとすることは有効です。
実は病院では、患者さんの状況をより知るために、親御さんにも来てもらうことが少なくありません。「子どもの精神状態が不安定だから、親としてどうつきあっていけばいいかを伝えたい」という、もっともらしい理由で来てもらいます。
そこで親御さんと話していると、何か疾患がアリそうだなぁと感じることもあり、これは子どもからしたら、かなり大変だろうなと思う人もいます。
それを患者さんに言う言わないは、時と場合によりますが、いずれどこかのタイミングで、「あなたの親御さんも子育てに対する不安から、毒親になってしまった、実はそもそも病気もありそうだから、こういう扱いになったのもしかたないよ」という話をすることになります。
そうすると患者さんのほうも、それならわからなくもない、病気だったらしかたないか、と落としどころを見つけることができるかもしれません。
もちろん許してあげてとは言いませんが、こういう背景があるから、毒親的な接し方になってしまって、根本はあなたを苦しめたいとか、嫌がらせをしたいと思っているわけではないということを伝えるわけです。
とにかく親への憎悪のあまり、患者さんのイライラの矛先が、自分のパートナーなり子どもなりに向かっていかないように、私としては患者さんが何かしら、しかたないかと思える材料を渡したいという気持ちが大きいのです。
ステップ3:現実的なつきあい方を探る
親に対してネガティブな感情があっても、日本は家社会で、家族のつながりを重要視する傾向が強いので、なかなか親との縁を切ることができない人のほうが多いのが現状。
だからこそ、2つのステップをへたうえで、3つ目のステップとして、自分が納得できる範囲で親とのつきあい方を見つけるほうが現実的だと考えています。
その方法としては、親との関係をいったんゼロにして、そこから何を足せるか考えていくことです。たとえば、実家を出てゼロにしてから2泊3日なら実家に帰れるか考えてみるといったことをします。
それがきついと感じるなら、日帰りはどうか、一年に1回の日帰りならいいか、そうやって何を足せるかを考えながら、親との距離感をうまく見つけていくことが必要なのです。
ただ、これも最初のステップで「親のせい」としっかりと思考を固めておかないと、何かあったら実家に帰ろうかな、と揺らいでしまいます。年に1回と決めたのに、親のほうが「体の調子が悪い」「帰ってこないのか」と揺さぶってきて、なぜか2、3回帰ろうとしてしまうのです。
そうすると元のもくあみで、自身の抱えている症状は、まったく改善することはありません。自分の心身の健康を守るためにも、そこは譲らないようにぐっと耐えるのです。
このプロセスをへると、ぐんと生きやすく、もちろん子育てもしやすくなります。ぜひ、がんばってやってほしいです。
『子育てで毒親になりそうなとき読んでほしい本』
子育てというのは、大きな喜びをもたらしてくれる一方で、実にストレスフルなもの。誰もが毒親になる可能性を秘めています。
この本では、自分が毒親化していると気づいた人が呪縛から脱し、わが子に向き合い、自分らしく生きていくためのステップを、精神科医の井上智介氏がアドバイス!