「うちの子は平凡でこれといった取り柄が見つからない」「大きな問題はないけれど、なんとなく子どもの将来が不安」。そんな悩みを持つ親御さんは多いようです。
慶應義塾大学医学部小児科主任教授で『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』などの著書がある高橋孝雄先生が、
前回に引き続き、そんな親御さんたちのお悩みにアドバイスします。
【お悩み】習い事も続けられず将来が心配
なにか得意なことを見つけてあげたくて、2歳のころから水泳、サッカー、習字、英語などさまざまな習い事にトライさせてきましたが、「めんどくさい」「友達がいやだ」など理由をつけて、何ひとつ半年以上続きませんでした。こんなに忍耐力がなくて、今後大丈夫でしょうか。(7歳・男の子のママ)_______
子どもの習い事が続かない悩みを持つ親御さんは本当に多いようですね。水泳、サッカー、習字に英語……、「なにか一つくらいヒットしないかな」「才能の芽が見つかるかもしれない」、そんな思いがあるのかもしれません。
早期教育は無駄を覚悟でやらせるもの
拙著でもお伝えしていますが、ぼくは早期教育にはたいした意味がなく、無駄なものだと思っています。ずば抜けた能力や才能が目覚めるためには、もちろんある程度の環境は必要ですが、遺伝的素因子による部分が強く影響します。何かを早い時期から習得したところで、大人になってから有利になる、頭抜けた才能を手に入れる、ということは期待できません。
親御さんは、ご自身の願望を子どもに託しているのではありませんか。自分自身が英語で苦労したから、子どもには英語をマスターさせるべく2歳から英会話に通わせたりする。そこにお金を使うのであれば、今からでもご自身が英会話スクールに通ったほうがいい。
結局のところ、早期教育を子どもに行うのは、子どもに後悔してほしくないからではなく、親自身が後悔したくないだけなのだと思います。ぼくはそのような親心を「後悔したくない症候群」と呼んでいます。
ただ、早期教育は無駄だと言いましたが、悪影響があるとは言っていません。無駄を覚悟でやるものだ、ということです。それに、無駄なことをしてはいけないわけではないですよね。
無駄っていいものですよ。たまに銀座のカフェで3000円もするアフタヌーンティを楽しむ時間は無駄といえば無駄ですが、“いい無駄”ではないですか。人間にはそんな無駄が必要です。
試して、挫けることはいい“無駄”に
子どもにだって、無駄な時間は大切です。無駄になっても結構という覚悟があれば、習い事もおおいに結構。“無駄”を通じて、子ども自身が身をもって嫌いなこと苦手なことを知ることにもなります。
子ども自身がやめなきゃよかったって後悔することもあるかもしれません。努力が報われないこともがあることも知るでしょう。幼稚園や小学校でそういう経験をしておくと、将来、必ず何かの役に立つはずです。
また、このお母さんは息子さんに忍耐力がないと心配されていますが、無駄なことを積み重ねて、とりあえずいろいろな習い事に挑戦し続けているこの子は、実は非常に忍耐力のある子だと思います。色々試して、挫けて、それでも新しい挑戦をしている。きっと、”いい無駄”になりますよ。
「今がよければ幸せ」の感覚を大事にして
最後に一つ。お悩みの最後に “今後、大丈夫でしょうか?”とありますが、“今後”は禁句ですよ、お母さん。
『子どもが心配 人として大事な三つの力』(PHP新書)で対談させていただいた養老孟司先生が「幸せの先送り」という言葉を使っていらっしゃいました。子どもは子どもであるだけで幸せで、今がいちばん幸せなのに、子ども時代を「大人への準備期間」と位置づけて、なぜ幸せを先送りにさせるのか、と先生は疑問を投げかけています。
子どもの今がよければそれでいいと思えませんか。大人になるとそうはいきませんが、子どもは子どもであるだけで幸せなのです。“今後、大丈夫でしょうか?”と悩んでいるということは、子どもに何らかの成果を求めていることになる。今がよければ幸せ、そう思うようにしましょうよ。
高橋孝雄 慶應義塾大学医学部小児科主任教授。医学博士。専門は小児科一般と小児神経。1957年生まれ。1988年から米国マサチューセッツ総合病院小児神経科に勤務、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。94年に帰国、慶應義塾大学病院小児科で医師・教授として活動。日本小児科学会前会長。著書に『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』『子どものチカラを信じましょう』(ともにマガジンハウス)。
撮影/柴田和宣 取材・文/金澤友絵
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