まだ小さなわが子に対して、日々どんな言葉をかけたらいいのかわからない、という声をよく耳にします。赤ちゃんは会話ができないだけに、こちらもついつい無言になってしまう…というママも少なくないようです。
でも、どんな年齢の子どもであっても、言葉は非常に重要な親子コミュニケーションの一つ。特に赤ちゃん時代の言葉がけは、子どもの将来に大きな影響を及ぼすのだと言います。
そこで、親が知っておくべき「いい言葉がけ」と「悪い言葉がけ」について心理療法家の矢野惣一先生にうかがいました。
〝静かな子育て〟ではなく積極的に話しかけて
赤ちゃんはたとえ言葉が話せなくても、実は相手の言っていることをかなり理解しています。言葉のニュアンスや表情から、相手の感情をくみ取っているので、パパやママはぜひ積極的に声をかけてください。
とはいえ注意したいのは、ふだんはあまり感情をあらわさないのに、怒るときだけ感情的になるパターン。そういう親に育てられると、「怒られたくない」という理由で行動しがちに。
「三つ子の魂百まで」という言葉がありますが、親としっかりした信頼関係を結び、ときには苦しいこともある人生を切り開いていく勇気を持つためには、赤ちゃん時代にどんな言葉をかけられてきたかが大きなポイント。人生の土台に幸福感や愛情といったプラスの感情をしっかりと根づかせるために、言葉のかけ方を工夫しましょう。
共感力がカギ。赤ちゃんへの言葉がけ3つのポイント
赤ちゃんに言葉をかける際に、常に意識したいのは”共感力”。赤ちゃんの気持ちに寄り添うことが重要です。
1 言葉にできない子どもの気持ちをママが代弁して
赤ちゃんは泣いたり笑ったりして自分の気持ちを伝えます。その気持ちがどんな言葉で表現されるのかを教えるのは、大人の役目。笑顔のときには「うれしいね♪」、夢中になっていたら「おもしろいねぇ!!」、泣いたら「悲しいね。困ったね~」と、あらゆる場面で赤ちゃんの喜怒哀楽に共感し、代弁しましょう。赤ちゃんはだんだん「そうか、この気持ちは『楽しい』だ」と、感情を表現する言葉を学んでいきます。
会話が成り立たないから話しかけてもむなしい。そんな〝静かな育児〟で、赤ちゃんが自分の感情を言葉で表現できるようになる機会を奪っていませんか?私は多くのカウンセリング経験から、「不登校やうつなどの問題は、感情を言葉で表現できないことが根底にある」と感じています。
赤ちゃん時代に何よりも大切なのは、感情を表現する言葉を知ること、そしてその感情を批判されたり禁止されたりしないことです。赤ちゃんの喜怒哀楽を言葉で代弁するのと同時に、「そんなことで泣かない」「そんなことを面白がるなんて」と、感情の禁止行為をしないように心がけましょう。
2 危険な行為はしかるべき。ただし気持ちはくみ取って
していいことと悪いことの区別がつかない赤ちゃん。人をかむ、高いところに上るなどの行為にも悪気はありません。そんなとき、きつくしかって後悔するママもいるようですが、やはりダメなものはダメ。自分や他者を傷つけることや危険な行為は、きっぱり禁止するのが正解です。
おたふくかぜなど、大人になってからかかると症状が重くなる病気があります。しかられるのも同じ。しかられることに免疫がないまま成長すると、少しの注意で深刻なダメージを受ける大人になる恐れがあります。
ただし、注意点が一つ。しかるのはその行為だけ。赤ちゃんがそうするに至った気持ちはくみ取ってあげましょう。「押してみたかったんだね」など、気持ちに共感してあげて。そうやって気持ちを認めてもらえた赤ちゃんは、やがて自分の行為の理由を説明できるようになります。そして、その理由をわかってもらうことで、「ダメ!」を納得して受け入れられるようになるのです。
3 「ほめる」より「喜ぶ」こと。ママの気持ちを素直に伝えて
ほめる育児がいい、と言われます。もちろん、ほめるのは悪いことではありません。でも私は、ほめるより、喜ぶことを意識してほしいと思います。たとえば赤ちゃんが初めて歩いたとき。ママのいちばんの気持ちは「えらい!」よりも、「やったぁ~!ついに歩いたバンザーイ!」ではないでしょうか?それを素直に表現すればいいのです。
親は、ありったけの愛情を子どもに注ぎます。でも実は、子どももありったけの愛情を親に注いでいることに気づいていますか?赤ちゃんからの愛を受け取ること、「ママが喜ぶと自分もうれしい」という体験をさせてあげることは、とても大切です。与える喜びを経験することで、「自分は必要な存在だ」と、自尊心をはぐくむことができるのです。
思春期に問題を起こすお子さんのカウンセリングをしていると、「みんな何もしてくれない」と、受け取ることばかりに意識が向いていることがよくあります。与えることの喜びを知らず、与えてもらえない自分には価値がない、と考えてしまうのです。
どうぞ、たくさんの「うれしい」「ありがとう」を赤ちゃんに伝えてあげてください。それは、赤ちゃんにとってかけがえのない自信につながっていくはずです。
こんなときどう言う?ケース別・いい言葉がけとは?
育児でよくあるシーンごとに、おすすめの言葉がけの例をご紹介。どんなシーンでも、まずは子どもの気持ちに共感するところからスタートです。
苦手なトマトを頑張って食べたときには…
➤やった~!トマトさんも喜んでるよ。ママも嬉しい♡「すごいねえ」「えらいねえ」「よく頑張ったね」などとほめるのは間違いではありません。でも、ほめられてうれしいのは子どもだけ。いわば一方通行の言葉がけです。一方、ママもトマトもうれしいと伝えれば、ママが喜んでくれて自分もうれしい、という絆が生まれます。親子で喜び合いながら、同時にほっぺをつつくなど、楽しいスキンシップもぜひ加えましょう。
早く出かけたいのに「自分で靴をはく」と言い張ってイライラしたときには…
➤おじいちゃんが会いたがっているよ。ママも早く行きたいな。「バスに遅れちゃうから、早く早く!」などとせかすのはダメ。大人の都合は子どもには伝わりません。「小さい子でもきちんと説明すればわかる」という人もいますが、乳児期の子に伝わるのは理屈ではなく「ママが自分のことを思って言ってくれている」「ママが困っている」などの感情です。急ぐときは「なぜ」という理屈ではなく、待っている人の感情やママの気持ちを伝えるほうがスムーズです。
車の多い道で、何度つないでも手を振りほどいて走り出す子には…
➤○○ちゃんがケガをしたら悲しいな。おててつなごうね。「危ないから走っちゃダメ」と言っても、子どもは危ないことを経験していないので、その意味を理解できません。また、走り出した子どもにストップをかけても足は止まりません。何かをした結果「ママは悲しくなる」という気持ちを伝えて。「手をつなぐ」など、代わりにどうしたらいいのかをわかりやすく伝えるのも、大切なポイントです。
歩いていたら転んじゃった!ひざをすりむいて泣きだしたら…
➤大丈夫?痛いよね。「男の子だから泣かない、泣かない」などと励ます人がいますが、赤ちゃんにはまず「どんなときも、自分を大切に思ってくれる人が助けてくれる」という安心感を持たせてあげたいもの。その安心感があるからこそ困難に立ち向かい、自力で立ち上がれるようになるのです。泣いている赤ちゃんにはすぐにかけよって「大丈夫?痛いの痛いの飛んでけ~」となぐさめてあげて。
機嫌が悪くて、何をやってもギャン泣きしているときは…
➤……(無言でスキンシップ)「どうしたの?なんで泣くの?泣くのやめようよ」などと言うのはNG。赤ちゃんは疲れていたり眠いと、不機嫌に泣き続けます。そんなときには黙って抱きしめて、背中をトントンしてあげて。泣きやませようとがんばっても、赤ちゃんは泣く理由なんて答えられません。言葉をかけるとしたら、「安心して泣いていいよ」と、泣いていることへの共感ぐらい。ケガや病気など、体のトラブルでないことだけは確認してくださいね。
おもちゃの取り合いで、お友だちをつきとばしちゃったら…
➤やめなさい!(その後フォロー)人を傷つける行為はしっかりとしかり、やめさせます。ただし、しかるのはつきとばした行為に対してだけ。お友だちをつきとばすにいたった気持ちは、くみ取ってあげたいですね。単に「ダメだよ。返そうね。これは○○くんのおもちゃだよ」などと諭すのではなく、もうお話ができる年齢なら、できるだけ気持ちを聞いて「そうだったんだ」と理解してあげて。おしゃべりがまだできない子には、「おもちゃで遊びたかったんだね」と気持ちを代弁してあげましょう。
記事を読む⇒⇒⇒【子どものしつけ】0歳から3歳までに身につけておきたい「生活習慣」年齢別アドバイス
記事を読む⇒⇒⇒子どもの脳育てに悪影響を与えるものとは?親がやるべきたった一つのこと【発達脳科学者監修】