精神科医で産業医の井上智介氏によれば、近ごろ増えているのが、幼児や小学生の子どもを育てるパパ&ママからの相談。
育児に疲れ果て、「つい子どもにイライラして怒ってしまう」「正直手をあげてしまうこともある」と打ち明け、どの人も「自分は毒親かもしれない」と悩んでいるのだとか。
では、愛すべき子どもに対して、なぜ毒親になってしまうのか、自分が毒親にならないためにはどうすればいいのでしょうか?井上氏の著書『毒親になりそうなとき読んでほしい本』より、そのヒントを連載でご紹介します。
前回は、毒親になる人とならない人の違いについて解説しました。
➤➤毒親になる人とならない人はどこが違う?危険なのはこんなタイプ!精神科医がアドバイス今回は、自身が毒親育ちの人が親になったときの、虐待の連鎖についてお伝えします。
もしかして、あれは虐待だったのかも
ここまでのご説明で、自分がうまく子育てできないのは、実は自分の育ちに原因があったのではないか、うちの親こそ毒親だったのではないかと気づいた人も多いかもしれません。
ふり返ってみると、きょうだいと比べられたり、外に何時間もほうり出されたり、親から「産まなきゃよかった」と言われたりしたこともある……と。
毒親に育てられると、大人になっても、どこか生きづらさを抱えながら生きていくことになります。外来で来られた方に話を聞くと、みなさん毎日とてもしんどい、満たされなくて空虚だし、意欲ややる気がわかない、と言います。でも、その理由ははっきりとはわからないと言われます。
そこでこちらが、「仕事はしんどいですか」と聞いてみると、そうでもない。生活のことを聞いてみると「親から毎日電話がかかってきて……」と、さらっと話をされます。そこから幼少期の話を聞いていくと、親にメールを見られたり、勝手に部屋に入られたりしていました。
「たしかに、それがいいかと言われたら嫌だけど、別にそんなものかなと思っています」と言われます。メンタル不調の原因は、明らかに親にあるわけですが、ご本人は気づいていないのです。
しかしながら自分の親がおかしいと気づくのは、誰であっても難しいことです。なぜなら多くの人は家庭を一つしか知りませんし、それがどんなにゆがんでいても、そんなものだと思うからです。それを否定するのは、自分の過去を否定することにもなり、さらに勇気のいることです。
患者さんの話を聞いていると、明らかに異常な成育環境であって「それは異常ですよ」と、こちらが指摘しても「そんなに悪く言わないでください」と、なかなか受け入れられない人も珍しくありません。
たとえば教育虐待する親は、100点とったらほめてくれて、100点がとれなかったら厳しいです。だから、やさしいときもあれば、厳しいときもあるのです。子ども目線では「うちの親は厳しいところもあったけれど、やさしいところもありましたよ」となるのです。
身体的な虐待を受けていても「なぐられたり蹴られたりするときもありましたが、ごはんも食べさせてくれたし、学校にも行かせてくれた」となるのです。
あなたの家や親はふつうじゃない!?
しかし、こういう家庭は、家庭内に緊張感があり、子どもはどこかでまたなぐられるんじゃないか、怒られるんじゃないかと、いつもおどおどしているのです。ですから、あなたがいま子育て中で、子どもをすこやかに育てたいなら、まずここに気づくことからスタートしてください。
毒親によって自分の心が壊されているのに、「親も家庭もふつうでしたよ。そういうものでしょう」と思っている人は、自分の子どもに対しても同じように虐待してしまうリスクがあります。
家庭や親の異常性をなかなか認められない人に限って「家族はこうあるべき」というものにしばられている人が多いです。だから自分の子どもには、ちょっと厳しいくらいがよくて、子どもにガミガミ言うのはしつけであり、教育である、という考えが根強くあります。こうやって毒親が連鎖していくのです。
家や親の異常性に気づく2つの質問
そういった自分の家や親のおかしさに気づくチェックポイントが2つあります。
1つ目は「家の中に安心感や安全感があったかどうか」です。家に帰ると、どこか緊張感があって、親のきげんや顔色をずっとうかがう状態で過ごさなければいけなかったならば、もうそこは異常な場所です。
そして2つ目は「1回実家を出たら、また戻りたいか?」です。病院を受診している人は、だいたい「絶対に戻りたくない」と言います。そこで、やっと自分の家が異常で、親が毒親だったと気がつけるのです。それくらい誰もが自分の家をふつうだと思っているのです。
いま子育てに悩んでいる人は、“ふつうの家庭”は存在しないことを前提に、自分の実家に安心、安全があったか、実家を出たら戻りたいかをまず自分に問いかけてみてください。
毒親に育てられると虐待へのハードルが低くなる?
自分の子育てを通して、自分自身も実は親から虐待されていた、自分の親こそ毒親だったと気づく人もいるでしょう。だから自分の子どもには親と同じことをしないようにしよう、子どもには無条件の愛をささげよう、そうかたく決心するでしょう。
しかし、多くの人が自分の家庭しか知らないので、程度の差こそあれ、どうしても同じことをしてしまいがちです。たとえば自分は2時間も外にほうり出されてつらかったから、自分の子どもにはそんなことをしたくないけれど、30分くらいなら大丈夫ではないかという考えが脳裏をよぎってしまうのです。
そんなふうに虐待に対する抵抗感が薄くなります。自分がされたことよりも軽いレベルだから、そんなに問題ないでしょうという価値観が根底に生まれてしまうのです。
特に昭和の時代に育った人は、しかられて外に出されることはあたりまえだったと話すことが多いです。学校も含めて体罰が許されていたという話もよく聞きます。ある意味、昭和は毒親があちこちにいる時代でした。
親が子どもに厳しくあたること自体、そんなに悪いことでもなかったのでしょう。これもしつけだし、教育でしょうという風潮がありました。
ですから、自分自身がこういった経験をしていると、やはり子どもに厳しくあたることに抵抗が弱まります。昔はよしとされていたからか「これが虐待になるの?」という反応をされる人も多いです。こうした時代背景もあって、世代を超えて虐待がつづいてしまうことも知っておいてほしいです。
「いい子育てしてるね」って言われたい
また毒親に育てられた人は、基本的に自分に自信がもてないので、自分の子育てに対しても迷いが大きくなります。そうなるとまわりの評価を頼りにするしかありません。つまり、まわりに「いい子育てをしているよね」と思ってもらえるように、子どもをコントロールしていくことになるのです。
そうなると子どもに対する目線は、親としての愛情のまなざしではなく、いまの厳しい不寛容な時代を生きる他人の目線になってしまい、当然、子どもへのあたりは厳しくなります。ああしなさい、こうしなさいと子どもをコントロールしたあげく、子どものふるまいを自分の成績のように思うようになってしまうのです。
『子育てで毒親になりそうなとき読んでほしい本』
子育てというのは、大きな喜びをもたらしてくれる一方で、実にストレスフルなもの。誰もが毒親になる可能性を秘めています。
この本では、自分が毒親化していると気づいた人が呪縛から脱し、わが子に向き合い、自分らしく生きていくためのステップを、精神科医の井上智介氏がアドバイス!