食育が大切というけれど、何を教えればいいの? 始めるのは何才から? とわからないことばかり。体にやさしい食材やキッズ用調理道具を揃えなきゃ、と思っているパパ&ママも多いかもしれません。
でも、実はそんなに構えなくても大丈夫。一緒にごはんを食べたり、キッチンに立ったりするだけでも、立派な食育なんです。
そう教えてくれたのは、2人のお子さんを育てる親子料理研究家で、モンテッソーリ教師でもあるいしづかかな先生。ご本人の実体験やモンテッソーリ教育に基づく食育のコツを教えてもらいました。
妊娠・出産をきっかけに食の大切さに開眼!
子どもができるまでの私は、冷凍食品や栄養ドリンクに頼りっぱなし。だしの取り方も知らない料理初心者でした。
でも、第一子の妊娠をきっかけに「食べたもので体ができる」と気づき、このままでいいの? と思うように。それで、娘が離乳食になった頃に料理教室に通い始めたのです。
料理教室には子連れで行っていました。楽しそうな大人に囲まれて、娘も自然と食に興味を持つようになり、2才の誕生日にねだられたのは「包丁」。
それまでは食材を切る時にバターナイフを使用していたのですが、「ママはいいな~、包丁が使えて」と、ずっと憧れていたみたい。
第二子の長男も0才からキッチンに入り、1才半から包丁で野菜を切っていました。今は魚が大好きで、最近ではアジを3枚おろしにしたことも。
▲長男はお魚が大好き。マグロのぬいぐるみと自作のさかなクン帽子がお気に入り。振り返ると、いつも子どもたちと一緒にキッチンにいました。火を使う調理はできなくても、柔らかいものを切ってボウルに移したり、カトラリーを運んだり、その年齢でできる作業を楽しんでいました。
私にとっても、子どもがキッチンにいるのは理想的。というのも、親子コミュニケーションとごはんの準備がまとめてできちゃうからです。
一緒におままごとやお絵描きをしてから私一人で料理をしたら、かかる時間は2倍。でも、一緒に「料理すること」を「遊び」にすれば、エネルギーも時間も半分!
子育てでママが一番エネルギーを使うのは「一緒に遊ぶこと」「食事をすること」「寝かしつけること」。どれも大切だけど、全てを完璧にこなすことは難しいから。せめてこのうち2つをまとめちゃおうという発想(笑)。
私自身はあまり食育とは思わずに、自然とそんな生活をしていたのですが、子どもたちはキッチンでたくさんのことを学びました。
食にまつわるルールを学び、周囲への配慮や我慢の心を身につけて、困ったときの対処法など自分ができないことは人に助けてもらう力を育んだり。また、季節の巡りを感じて、自然の恵みの美味しさや「いのち」の大切さを知るなど、人が生きていくうえで大切なことを、食を通したコミュニケーションの中からしっかり身につけてくれました。
わが子を見ていて、親である私がそう実感できたので、長女が小学校に入るときも安心して送り出せました。親子の信頼関係がきちんと築けていたからだと思います。
作る、準備する、食べる。どの過程にも、どんな食べ物にも学びがある
子どもの食というと、何をどのくらい食べさせればいい? 好き嫌いや小食をなくすには? など、どうしても栄養面や健康面に目が向きがち。
でも、子どもが食から吸収できるのは、それだけではありません。食を通して、心や頭も育まれていきます。
私は子どもを持つ前に「モンテッソーリ教育」に興味を持ち、教師となったのですが、モンテッソーリ教育で大切にしていることは食からも学べるということに気づきました。
モンテッソーリとは、「子どもには自分を育てる力が備わっている」という考えをもとにした教育法。子どもが自ら考え、工夫し、想像する力を身につけるために環境を整え、手助けをする、という考え方です。
子どもに対し知識を教え込んだり、無理な要求をするのではなく、子どもの中にある「やってみたい」「一人でできる」という気持ちをサポートしていくことが大切なのです。
そんなモンテッソーリの理念から言えば、食育についても「あれをやらせなきゃ」「これを教えなきゃ」なんて難しく考える必要はありません。
例えば、夕食づくりのために一緒に買い物に行くのだって立派な食育。好奇心が旺盛な子どもの欲求を満たす時間となります。スーパーでさまざまな商品を見て、陳列棚を眺めて、働いている人やお客さんを観察するだけでも、社会のしくみやものの値段を知ることができます。
キッチンで食材に触れれば、野菜の質感や匂い、魚の体のしくみなどを実感することもできますよね。わざわざアウトドアに出かけなくても、食べ物に触れることは一番身近で手軽な自然体験です。
外で摘んできた草花を生けるだけでも、季節感や旬の感覚が身につきます。売っている花と違って、雑草は旬の時期しか咲かないですから。
▲子どもたちが摘んできた草花をテーブルに。食事中の話題にももちろん、出来合いの食品だってOK。スーパーのお惣菜なら「ママが作れなかったから助けてもらったの」と作ってくれた人に感謝したり、家のレシピとどう違うか話してみたり。
冷凍食品はメーカーの技術革新の結晶。「こんなに簡単でおいしいなんて、どんな技術で作られているのかな?」と食品産業に興味が湧くかもしれません。
そんなふうに、食育に特別な準備なんて必要ない。親は子どもの興味に合わせて、食を楽しむ機会を与えるだけでよいのです。
家族みんなで、楽しく食べることを心がけて
1つだけ大切なのは、楽しく食に向き合うこと。「家族みんなで食べるのが理想」と言われますが、共働きやワンオペ育児のかたも多いはず。平日は子どもだけの食事になっても仕方ありません。「こうすべき」にとらわれて、しんどい気持ちで食卓に向かうよりも、できる時に、できることを!
平日が大変だったら、週末はなるべく家族で一緒に「おいしい」を共有してみて。手料理でも買ってきた食品でもいいので、大人が食事を楽しんでいる姿を見せてあげてください。
▲長女は9才、長男は6才。今は息子のほうが料理に夢中です子どもに好き嫌いがあっても、食べさせることにこだわらなくてOK。その食材のことを知る機会があったり、親がおいしそうに食べていたりすれば、自然と興味を持つはずです。
「これを教えよう」と頑張らなくても、キッチンや食卓で子どもと一緒に過ごす時間を増やすだけ。そう思えたら、食育がずっと身近になりませんか?
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➤➤「食育にピッタリ!簡単レシピ」動画
今回お話をうかがった、いしづかかな先生発の子どもと一緒に楽しく作れる「おむすびレシピ4種」を動画でご紹介しています。ぜひ親子でトライしてみてください!
●Profile●
いしづかかなさん親子料理研究家 |AMI公認国際モンテッソーリ教師モンテッソーリ教師の資格を持つ母として子育てをスタート。 食の大切さと、親子で過ごす楽しい時間に重きを置いた日々の中で、たどり着いたのが「親子料理」という過ごし方。 二人の子どもたちと一緒に作ったごはんやおやつは6年間で1500品以上。生きる力を身につけ、いのちを繋ぐ大切さを学ぶ親子料理教室「kids kitchen atelierデキタヨ!」を主宰。 湘南を拠点とした親子料理教室運営のほか、大人向けの講座・執筆・レシピ開発・監修事業・出張講座など「親子の食にまつわる環境整備」を軸に活動中。
取材・文/後藤由里子 撮影/佐山裕子(主婦の友社)