子どもたちがこれからの時代を生き抜くために必要とされるのは、目先の学力ではなく、「ねばり強さ」や「あきらめずにやり抜こうとする力」。海外でもいま、この「やり抜く力(GRIT)」の大切さが叫ばれているのだそうです。
「やり抜く力」があれば、勉強でも運動でも目標を持ってとり組み、人とうまくやっていこうと努力することができるはず。そしてどんな環境にもしなやかに適応して、たくましく生き抜くことができるからです。
では、そんな力を身につけるためには、どのような家庭環境が必要なのでしょう?
東京大学大学院教育学研究科教授・秋田貴代美先生は、「安全で赤ちゃんが安心できること、そして親との愛着関係が築けていること」だと言います。
特に、人としての土台がつくられる0~3歳の時期は、何か特別なことが必要なのではなく、日々の積み重ねで親子の揺るぎない愛着関係を築くことこそが、健全な脳を育て、将来を左右することになるのだとか。
そこで、ふだんの生活の中で、親として意識すべき育脳ポイントを秋田先生に教えていただきました。「え?これだけでいいの?」と思うかもしれませんが、忙しさに流されて、意識しないとできないことも多いはず。今日から1日5分でも始めてみませんか?
1 赤ちゃんの興味や思いに気づき反応しよう
ママはふだん、赤ちゃんの様子や表情を見ていると思います。すると赤ちゃんが何を見ているのか、何をしたいのか、だんだんわかってくるのではないでしょうか。
例えば、ママの姿をずっと目で追っていたり、風で揺れるカーテンを見て笑っていたり。興味を持つものを見つけて、手を伸ばしたり、近づこうとしたりすることもありますね。
そんな様子を見たときには、「ママを見ているの?」「カーテンが揺れているね」などと声をかけてあげましょう。
ママやパパに心がけてほしいのは、赤ちゃんの注視しているものや行動を観察して、関心事や意欲・意思がなんなのか気づくこと。そして反応すること。
こうしたママやパパとの関係が、やがてよい人間関係を築いていくための基礎になるからです。
2 経験を一緒に喜び、気持ちを共有してあげて
赤ちゃんにとって、ママが自分のしたことを一緒に喜んでくれたり、気持ちに共感してくれたりする応答経験はとても大切です。
例えば、赤ちゃんがボールを投げて「ボーン」と言ったとき、ママはどう声をかけますか?「ボールが転がったね」と実況したり、「じょうずに投げたね」とほめたりすることが多いでしょうか。
それらも〇。でも赤ちゃんが言った、はずむ表現のままに「ボーン」と繰り返したら◎です。
ママが自分と同じ表現をしたことで、赤ちゃんはうれしくて心地よくなります。この心地よさを繰り返すことで、赤ちゃんはママへの愛着を深め、気持ちも安定します。
それが子どもの心を支える土台となり、何ごとにもねばり強く頑張ろうとする力のもととなるのです。
3 赤ちゃんのお気に入りに興味を持ってみて
子どもはよく「なんでそんなものを?」と思うものを気に入ることがあります。でも、子どもが好きなものにパパやママもぜひ興味を持ってみてください。
ある男の子は絵本のゾウがお気に入りなので、ママとパパが本物を見せてあげたいと動物園に連れて行きました。ところが、その子はゾウのエリアの前でしゃがみ込み、地面を動き回るアリの観察に夢中に…。
ママとパパはがっかりしましたが、「この子はゾウよりもアリに興味があるのね」と、3人でアリの観察を楽しんだそうです。
子どもの「好き」を親が理解したことで、子どもの知的好奇心が満たされただけではなく、親が自分を愛し、尊重してくれていることも伝わったでしょう。
4 子どもに必要なのは数少なくてもお気に入り
子どもに身につけさせたい能力の一つに「創造力」があります。この創造力の芽は、赤ちゃん自身の「気づき」「発見」から伸びていきます。
赤ちゃんはよく、同じ絵本を何度も「読んで」と持ってきたり、同じページばかり見ていることがあります。男の子の場合は、ミニカーを手で動かしては、タイヤを飽きずに眺めていたり。
赤ちゃんは同じことを繰り返しながら、新しい何かを見つけたり気づいたりしています。そして気づきを繰り返す経験は、やがて何かを作りたいという意欲につながるのです。
親はおもちゃがたくさんあれば楽しいだろうと思いがちですが、子どもにとってはじっくり見て触れる絵本1冊、ミニカー1台のある環境が大事です。
5 必要なのは特別な1回じゃなく、身近なもので繰り返し遊ぶこと
子どもがいると、テーマパークや動物園、水族館などあちこちに連れて行ってあげたくなりますね。特別な場で赤ちゃんの笑顔を見るのは親として嬉しいことですし、ママとしても気分転換になります。
ただ、特別な場や経験というのは、そのとき1回だけのこと。赤ちゃんに必要な「気づき」は、日常生活でいつも身の回りにあるものに、繰り返し繰り返しかかわることからしか得られません。
動物園に行って、本物のライオンが「大きい」と驚くのも大切なこと。でもそれはいっときの感動です。
それよりも、身近にあるお気に入りの絵本を何度も見たり、好きなおもちゃを動かしたり眺めたり、気のすむまで遊ばせてあげることのほうが、ずっと大切です。
6 「集中」していたらできるだけ中断させないで
赤ちゃんは興味のあるものを見て触ってなめて確かめて、五感をフル稼働させながら、物の色や形、においや手触り、仕組みなど多くのことに気づきます。そしてそれがどんなものなのかを学んでいます。
赤ちゃんにとっては遊び=学び。そして、家の中、毎日の生活すべてが赤ちゃんには学びなのです。
遊びや生活の中で気づいたり学んだりするためには、赤ちゃんがその物事に対して「集中」することが大事。これがすべての学びの基礎力。
赤ちゃんの月齢が低いほど集中力は続かないものですが、何かを一生懸命なめたり触ったりしているときに、危険がない限りは声をかけたりじゃましたりせず、自由にやらせてあげましょう。
たとえば積み木を積むなど集中して遊んでいるうちに、子どもの集中できる時間は長くなっていきます。次は、その遊びが楽しくて、声をかけても気づかないくらい「夢中」になってくるでしょう。
夢中で遊ぶ経験をした子は、今度は「熱中」してその遊びをするようになる、ということがよくあります。
お気に入りの人形や電車など、同じおもちゃばかりで遊ぶという子は、多いのではないでしょうか。
大人は「また?おもちゃは他にもあるのに…」と思うかもしれませんが、集中さえキープできないはずの時期に、夢中になって熱中できるものがあることは、すばらしいことなのです。
集中・夢中・熱中の状態のときに子どもの脳は活性化しているので、むしろ喜ばしいことだと思って、気のすむまで遊ばせてあげてください。
7 子どもの「見てて」「見てね」を無視しないで
小さい子どもはよくママに「見て!見てて」と言います。この「見て」には2つの意味があります。
1つ目は、公園できれいな葉っぱを見つけたなどうれしいときに、ママにもその気持ちをわかってほしくて「見て!」と言う場合。こわい、大丈夫?という不安な気持ちに共感してほしいときにも使います。
もう1つは、段差からジャンプできた、積み木が3つ積めたなど、「できるようになったよ」とママに認めてもらいたくてアピールする場合です。
だから子どもが「見て!」と言ったときには、そちらを見て「葉っぱがきれいだね」「跳べたね」などと声をかけてあげてください。
大好きなママが自分の言動に反応してくれることは、子どもには最高にうれしいことで、ママへの愛着を深めます。
8 「できた」「よかったね」を増やしてあげよう
子どもは好奇心のかたまり。やりたいと思ったら、何でもトライします。そして、挑戦しては失敗することを繰り返して成長していきます。だから、失敗したときにしかるのは絶対NG!
その代わりに、大人は失敗しないように工夫をして、目立たないように手助けしてあげてください。着替えがうまくできないときは、後ろからそっとズボンを引き上げる、手を洗う場所には踏み台を置くなど。
子どもが「自分でできた」という経験をたくさん積めるようにしてあげましょう。うまくできたら「できた」「よかったね」と言ってあげて。
「やった」「うれしい」という体験をたくさんした子は、自分に自信が持てるようになり、自分の意思で決断・行動できる力が身につきます。
9 ぶつかり合いを乗り越えて気持ちを制御できるように
子どもは自我が芽生えてくると、ママを試すように困ることをする場面が出てきます。「触らないで」と言ったものをわざと触ったり、お出かけ前であせっているときに「自分で!」と靴をはきたがって時間がかかったり。
でも、親子がぶつかり合うのは、子どもの成長過程で必要なことです。感情的にしかったり、実力行使で物事を進めたりしないで。
「自分ではきたいのね」と気持ちを代弁したうえで、「ママは急がないと仕事に遅れちゃうから」などと困っているわけを伝えましょう。そして、履きやすい靴を勧めるなど、気持ちに沿う提案を。
ママとぶつかりながらも提案を受け入れることは、子どもが人の気持ちをくんだり、自分の気持ちや行動をコントロールする一歩になります。
10 お友達とのもめごとも人間関係の練習
子どもがはっきりとした意思を示し、主張や要求をできるようになるのは、2歳後半から3歳ごろ。
公共の場や集団生活の場などで、お気に入りのおもちゃで遊びたいのに、すでにお友達が遊んでいる、というような場面が増えていきます。
そんなとき、2~3歳ともなれば相手の様子や表情を観察し、自分はどう行動すべきか子どもなりに葛藤します。子どもにはこの葛藤がとても大事!
「お友達とケンカしないようにしよう」「遊びたくてもしばらくがまんしよう」「お友達が遊び終わるまで待とう」と、自分の気持ちや行動をコントロールする練習になるからです。
子どもは葛藤から人の気持ちを思いやり、人とうまくやっていく力を身につけていきます。
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