東京・小金井市、武蔵野の自然豊かな住宅地にある【地域の寄り合い所 また明日】は、認可保育園、認知症対応のデイホーム、地域の寄り合い所の3つが融合した施設。
さまざまな世代が共に過ごす風景はどこか懐かしく、お互いに自然な形で関わり合う様子を見ていると、じんわりあたたかな気持ちに。と同時に、今の社会での子育てや人との関わりについて深く考えさせられます。
前編では代表の森田眞希さんに、「また明日」の開所時のことや現在の様子についてお話を聞きました。後編では子育て中のお母さんへのアドバイスを伺います。
ご近所はあるものではなく、作るもの。挨拶をして顔見知りを増やそう
―――子育て中のお母さんのなかには、近所や地域との関わりがあまりない人もいます。「また明日」のような場が近くにあるといいのですが。
「“近所”ってあるものじゃなくて、作るものだと思うんです。
最近のお母さんたちを見ていると、自分なんかが人に声をかけるのもなぁ…って思っているように見えますね。もしかしたら相手の人も声をかけてもらえるのを待っているかもしれない、そう思って声がけしてみると、思わぬ反応があるかもしれませんよ」
―――確かに、みんなお互いに遠慮し合っている気もします。
「つながりを作るときの第一歩は、挨拶です。『また明日』の人たちはみんなでお散歩している時も、とにかくすれ違った人には必ず挨拶をするようにしています。
ここに視察や取材に来られる人に、『「また明日」にさまざまな人が出入りするのは、何かイベントなどをしているからですか?』ってよく聞かれるのですが、特に何もしていません。しているのは挨拶くらい。挨拶はタダですしね(笑)。逆にみんなどうして挨拶をしないのか不思議です」
―――やっぱり最初のひと声を出すのに勇気が要るからでしょうか。
「もちろん、こちらから声をかけても無視されることもあります。でも何回か挨拶をしていると、たいていは『あぁこの間も』ってなりますよ。
子どもたちも私やスタッフが挨拶するのを見て同じようにしていますし、挨拶をすることで顔見知りが増えます。保育園の親御さんによく言われるんですけれど、親の自分よりもうちの子のほうがこの地域では有名って(笑)。
スーパーでも『あ、「また明日」の子だね!』って言われたり、ここに来る小中学生と登下校時にすれ違ったら『あ、なんとかちゃんだね!』と名前も知っててもらえたり」
困った時に協力してもらえる!地域の人たちとつながろう
「この前も友人の惣菜屋さんがキッチンカーで来てくれて、『また明日』の園庭が『焼き芋 焼き栗屋さん』になりました。やはり友人の農家さんのお芋や栗があるから、お店屋さんをしようということになり、小学生が看板を作ったりして手伝ってくれてね」
―――楽しそうですね。そうすることで顔見知りがどんどん増えますしね。
「近くで駄菓子も置いているお店をやっている友人がいるのですが、買いに来る子どもたちのことをもちろん覚えています。
昼間の子どもの様子を知っている地域の人たちがいると、忙しく働いている親御さんたちも何か困った時にはそこに立ち寄れますしね。『この前、あそこであの子を見かけたよ』って教えてもらえたり」
―――地域の目があるのは親としても心強いし、ありがたいです。
「野菜やお惣菜をキッチンカーで売ったり、お弁当を配ったりする『地域食堂』を開く時は、友人はお店番を小学生に任せてくれます。というのも、算数が苦手な子どもたちが多いんですね。その話をみんなにしたら、協力してくれて。
お店番となると、子どもたちは苦手な算数も売るために頑張れるんです。なかには塾に行けない子たちもいるので、計算ドリル代わりですね。
私もわざと細々としたものを買って、1万円札を出したりして(笑)。もちろん大学生や高校生の子たちに、後ろで計算がちゃんと合っているかどうかを見てもらっていますけどね」
―――まさしく生きていくための算数ですね。計算する子どもたちの、生き生きとした。が目に浮かびます。
「以前は1回の買い物に10分くらい待たされました(笑)けど、最近は5分で済んでる!って。慣れてきたんでしょうね」
―――いろんな人たちが協力してくれるのはありがたいことですね。
「本当に。私たちだけではできないことですよね。今やもう、この『また明日』という枠組みを超えて、農家の人、商売をする人、観光協会の人、地域の人など、業種も所属もさまざまな人たちとつながっています」
―――そして地域も元気になるという。いいなぁ、ここに引っ越してきたいです(笑)。
「いえいえ、ここに来なくても、ぜひ自分の周りや地元で作ってください。何も難しいことではないんですよ、誰でもできることです。まずはあなたの半径何メートルのなかで声がけをしてみてください」