「反抗期」は成長する過程で、誰もが通る道。2歳前後のいわゆるイヤイヤ期が「第1次反抗期」、小学校高学年から中学生くらいの思春期に起こるのが「第2次反抗期」ですが、実は思春期の前にじわじわと「プレ反抗期」のような様子が見られるようになります。
それが小学1年~4年生の頃。言うことを聞かなかったり、反抗的な態度を見せたり…。「まだ思春期じゃないのに」と、わが子の変化に戸惑っている方も少なくないのでは?
そこで、プレ反抗期とはなぜ起こるのか、親は子どもとどう向き合えばいいのかを、小児科医の渡辺とよ子先生にうかがいました。
「反抗」は自立への助走期間
思春期のピークは中2くらいですが、変化は小学生に入った頃から徐々に起こっています。身体的な変化だけではなく、別の価値観が内面に生まれることで「これまでの自分のつくり直し」が始まるのです。
まだ親からは離れられないけれど、「自分は自分」「親の言いなりにはならない」という感覚を味わいたい、思春期の「助走期間」です。
この時期の反抗は、理屈の通らないものであることが多いものです。「イヤだ!」と泣きわめいて部屋から出てこないとか、「習いごとに行かない!」とゴネたくせに時間になったら「行きたかった」と泣いたり。説得も交渉も通じないのが特徴です。
「親を困らせるためにやっているのでは?」と思うような態度なのですが、本人にも理由はわからないのです。ただ、必死に親とは違う自分を手さぐりで感じようとしているのです。「いじらしいな」と受け止めてあげてください。
反抗的な態度は親を信頼している証
こんなに反抗的で、うちの子大丈夫?と心配になる人もいるでしょう。でも、学校ではどうですか?友だちに対しては?外では「いい子」ができているなら大丈夫。親に反抗するのは「自分がどんな態度をとっても、親の愛情は揺らがない」という信頼があるからです。
とはいえ腹は立ちます。もともと親には、子どもを自分の支配下に置きたいという強い欲求があるのですが、子どもの反抗はそこを刺激するので必要以上に腹が立ってしまうのです。
しかし、ここでひどく厳しい態度をとり、無理やり屈服させ続けるのはあまりよい結果を生みません。小学生のうちはそれが通用しても、中学生や高校生、あるいはもっと先になってから、心にたまったウミがあふれ出すように反抗が始まります。
親への不信感がつのっていますから、激しい暴力や不良化、家出や引きこもりといった望ましくない形であらわれることも珍しくありません。
反抗の激しさは親の激しさに比例する
さらに、この段階でも親子関係が改善しなければ、犯罪や自殺など、親への復讐のために自分の人生をダメにしてしまうことがあります。「おまえの子育ては間違っていたのだ」と、自分の人生をもって示そうとする子もいるのです。
だからこそ、思春期の前段階に小さな反抗が出たときが最初の勝負どころです。「そういうことをするのはやめてほしい」と伝えることは大切ですが、余裕を持ったあたたかい気持ちで接しているか、威圧的に「親の言うことを聞け!」という態度をとるかで、その後の反抗の姿は大きく違ってきます。
どんなにカッとなりやすい子でも、親がじょうずに受け流せば反抗はさほど激しくなりませんが、親が威圧的になると激しくなる傾向があります。反抗の激しさは、親の厳しさに比例するのです。
男の子の場合は、攻撃的になることも。親、特にお母さんはその激しさに巻き込まれて、冷静さを失うことがあります。つかみ合い殴り合い、体にも心にも傷を負い、わが子に憎しみに近い感情を抱いてしまう人もいます。まず、親が冷静になりましょう。
冷静になるための心得
●自分の怒りの感情に気づく腹が立つのは当然のこと。心の内側に怒りがわいてきたら「自分は今、怒っている」と気づいてください。これが冷静になる第一歩。
●深呼吸をして余裕を取り戻す「私は冷静ではない。落ち着こう」と自分に言い聞かせ、深呼吸したり、数を1から10まで数えたりして、心の平静さをとり戻しましょう。
●子どもと同じ次元でやり合わない言い合いになったら、先に引くのは親です。「自分は親だ、子どもと同じ次元で言い合ってはいけない」と自分に言い聞かせましょう。
●子どものペースをくずす「何言ってるの!?」という激情の応酬ではなく、おだやかさで応じます。「あなたならできる」と、自尊感情を満たすような伝え方を。
反抗するわが子とのコミュニケーション術
では、反抗児とはどのようにコミュニケーションをとればいいのでしょうか?よくありがちなシチュエーションごとの対処法をご紹介します。
「〇〇しなさい」というと必ず「ヤダ!」
➤命令形は使わない。やってくれたら感謝を!「○○しなさい」という言い方は問題です。命令口調や力ずくで言うことを聞かせられるのは、幼児期までです。子どもに言うときには「片づけなさい」ではなく、「○○しているみたいだけれど、それ片づけられる?」など、イエスかノーで返事ができるような聞き方をしましょう。
「無理」と言われたら、いつならできるかを確認し、それに対して「ヤダ」と言われたら、「そうか。困ったなぁ」でいったんこの話はおいておきます。すると、あとで自分からやったりするのです。
子どもが片づけたら「ありがとう」を忘れずに。もしやっていなかったら、機嫌のいいときを見計らって「片づけられるかな?」をくり返します。反抗児には根気よく接しましょう。
デブ、ブタなど、親を口汚くののしる
➤「はい! ブーちゃんです」と軽やかにいなす余裕をこういう言葉をよその人にも言うなら問題ですが、親にしか言わないのであれば、単に汚い言葉を使いたいだけの話です。ムキになるのではなく、ユーモアで返しましょう。
「はい、私が肉まんのブーちゃんです。これからはそうお呼びくださいね」と切り返し、「ママ」と呼ばれても「あれ、ブーちゃんよ」と答えるなど、軽やかに、じょうずにいなしましょう。
ただし、もしもおじいちゃんに「クソじじい」などと言うようなら、「私のお父さんに失礼なことを言わないで」ときっぱり言いましょう。「あなたのおじいちゃん」ではなく「私の父」を強調します。ここでインパクトを与えるには、日頃ガミガミ言わないことが大事です。
注意すると「お母さんだって○○しない」など、痛いところをついてくる
➤事実は事実です自分に言い訳しないで大人はつい、「大人には事情がある」などと、自分のことは棚に上げがちですが、子どもは事実を指摘しているだけ。そして、「かかわらないで」と親を拒否し始めています。
この時期、子どもは自立のための準備を始め、自律(自分の感情や欲求を律すること)を学び始めています。その見本になるのは親の行動です。
口であれこれ言うよりも、行動で示すほうがよほど子どもに伝わります。言い訳せずに、親も自律していきましょう。
妹や弟に意地悪をする。叱るとダンマリ
➤きょうだいトラブルは見守るだけにする親は、きょうだい関係にあまり口をはさまないほうがいいでしょう。きょうだいは非常に距離が近いので、イライラをぶつけることがあるものです。もので殴るなどの危険な行為がなければ、親は見て見ぬふりでいましょう。
もし弟(もしくは妹)が泣いてやってきたら、十分話を聞いて気持ちを受け止めてあげてください。でも、お兄ちゃんやお姉ちゃんを呼びつけて叱る必要はありません。別の機会に、お兄ちゃん・お姉ちゃんとのんびりおしゃべりする機会を持ってみて。イライラの原因がわかるかもしれません。
宿題やピアノの練習をズルズルあと回しにする
➤なぜやらないのでしょう?その原因を探ってみてまず、少し観察しましょう。もともと自主的に勉強やピアノの練習をする子だったなら、必ず自分から「やらなくちゃ」と動き始めます。親がガミガミ言いすぎると逆効果になってしまうものです。
もし、自主的にやり始めないとしたら、ガミガミ言うだけではよけいに自主性を奪います。なぜ勉強するのか、なぜピアノを習うのか、親子で根本に立ち返って考えてみましょう。もしかしたら、ピアノよりスポーツを習いたいなど、気持ちの変化があるのかもしれません。
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反抗的な態度をとったからといって、「ごめんなさい。ボクが悪かった」という結果を求めて叱っていると、子どもは「親につぶされる」と感じ、自分を表に出さなくなります。
プレ反抗期の子どもに対しては、叱ったとしても最後には子どもを認め、尊重する姿勢を見せてあげることが大事です。
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