最近、さまざまな場面で耳にする「自己肯定感」。自身の自己肯定感を上げたいと思う一方で、わが子にも「自己肯定感の高い子どもに育ってほしい」と思うママやパパも多いことでしょう。
でもそれって、具体的にはどんな子?ポジティブで前向きで、自分のことが大好きな子?失敗したり、自分の欠点に悩んだりしてはいけないの?
心理カウンセラーの中島輝先生に、自己肯定感の本当の意味についてうかがいました。
「自己肯定感」に関する誤解が、子育て世代を困惑させる

「自己肯定感」という言葉は、ここ数年でかなり一般的になりました。
私が2019年に『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』という本を出版したときには、まだ心理学の専門用語としてとらえられていたように思います。
一般の人に広く知られるようになったぶん、誤ったとらえ方をする人も増えてきました。
「私には何の取り柄もない。だから自己肯定感を高められない」
「物事を全部ポジティブに考えなくちゃダメなんだ」
「子どもの頃に自己肯定感が育たなかったから、私は一生このままだ」
など、「自己肯定感」という言葉が、自分を否定する単語として使われていることがとても気になっています。
特に、子育て中のママやパパへの悪影響が気になります。初めての子育てであればなおのこと、わが子の行動や発達に不安を感じて、イラっとしたり、必要以上に怒ってしまったりするでしょう。
それは愛情ゆえのことなのに、「私はダメな親だ」「子どもの自己肯定感なんて育てられない」とますます自己肯定感を下げてしまっているのです。
また、ご自身が親に厳しく育てられた人の中には、「自己肯定感が高い子は、ワガママになってしまうんじゃないか」と思い込んでいる人もいるようです。
自己肯定感という言葉が独り歩きして、それが不安の種になっているのかもしれません。まずは自己肯定感とは何か、そこから整理していきましょう。
自己肯定感とは、自分の人生に◎をつけられること

自己肯定感を簡単に説明すると、
「私は、私のままで生きることができる」「私は私のままでも、幸せになる価値がある」と、信じられる気持ちのことを言います。
欠点があっていいし、悪い部分があってもいいのです。ポジティブになれなくたっていい。マイナスな面も全部含めて「それが自分なんだ」と認めて、自分の人生にマルをつけられることが自己肯定感です。
「自己肯定感が高い人は自分に自信があるから、人の意見を聞かなくなりそう」「自分以外の人を否定的に見ていそう」という声も聞きます。
そんなことはありません。
自己肯定感の高い人は、「いい部分も悪い部分も丸ごと受け入れたうえで、肯定的に見る」ということができる人です。つまり、他人の人生にも、そして社会にも、肯定的な目を向けられるのです。
人生には困難がつきものです。マイナスな感情に襲われることもあります。「この人は苦手だな」と感じることもあるでしょう。
でもそのときに、先に肯定的なものを見つけられることができれば、ピンチはチャンスに変わります。「いまは大変だけど、なんとかなるさ」と自分を信じることができれば、それが生きる力になるのです。
赤ちゃんは自己肯定感マックス状態。それが目減りするのはなぜ?

自己肯定感がもっとも高い人は誰だと思いますか?私は、赤ちゃんだと思います。
何もできない状態で生まれてきたにもかかわらず、毎日一生懸命体を動かし、1年後には歩けるようになっているのです。「自分には何もできない」なんて思わず、チャレンジを繰り返している。赤ちゃんの自己肯定感は人生でマックスです。
にもかかわらず、成長にともなって自己肯定感の総量が多い人と少ない人に分かれてしまうのはどうしてでしょう。それはやはり、環境なのです。
生まれたての赤ちゃんは、親や周囲の大人が日本語を使っていれば日本語を覚えますし、英語を使えば英語を話すようになります。人種も国籍も関係なく、環境の影響を強く受けるのです。
自己肯定感も同じです。生まれてから大人になるまで、どんな言葉をかけてもらってきたかが、その子の自己肯定感の総量を決めるのだと私は思います。
さて、コップを使った実験をしてみましょう。3歳の子に、水がなみなみと注がれたコップを運んでもらうのです。
Aくんは、親に「絶対にこぼしちゃダメよ!」「気をつけて持ってきてね!」と言われました。その結果、あっという間に水はこぼれてしまい、「だから言ったでしょ?」と叱られました。
その結果、どうなるか。Aくんは「ぼくは失敗ばかりだ」と自信を失います。
Bくんは、親に「水を持ってきてくれるの?ありがとうね」「右手はここ、左手はこっち。ゆっくり歩こうね」と優しくアドバイスされ、成功しても失敗しても「うれしい!助かった」と感謝してもらいました。
その結果、どうなるか。Bくんは「ぼくって役に立つ人間なんだ」と自信を持つようになります。
自己肯定感が育てるのは失敗や挫折に負けないメンタル

AくんとBくんの親の違いはどこにあると思いますか?
Aくんの親は、まず否定的な側面を見てしまうのです。「失敗するんじゃないか」と不安が先に立つので、「こぼしちゃダメ」という言葉が出てきます。
Bくんの親は、肯定的な側面を見ます。この子ならできると信じ、そのためにどうすればいいかを考えて助言しています。その結果、成功も失敗も受け止めて、がんばりを認めているのです。
このような言葉を毎日浴びて育ったとき、AくんとBくんの自己肯定感の総量はどちらが高くなるか、説明する必要もないと思います。
Aくんは大人になってからも、何か失敗するたびに「自分はダメだ」と思うかもしれません。自分の行動に自信が持てないかもしれません。
Bくんはきっと、何か失敗したときに「じゃあ、どうすればいいだろう」「自分の行動や考え方の、どこが間違っていたんだろう」と考えることができるでしょう。
これはけっして、「自分が失敗するはずがない」という安易な自己肯定ではありません。失敗した自分を受け入れ、行動や考えを振り返り、次の行動に移せることこそ、自己肯定感を持つ人の強みなのです。
●PROFILE●中島 輝(なかしま・てる)
心理カウンセラーで「自己肯定感」の第一人者。資格認定団体「トリエ」代表。心理学・脳科学・NLP(セラピーやカウンセリングの現場から生まれた実践的心理学)などの手法を用いて、Jリーガーや上場企業の経営者など15,000名を超えるクライアントにカウンセリングを行う。現在は、自己肯定感を高めれば人生・仕事・恋愛・健康・子育てが好転する「ナチュラル心理学」を提唱し、精力的に講座を開催している。著書に『自己肯定感の教科書』『自己肯定感が高まる うつ感情のトリセツ』『書くだけで人生が変わる自己肯定感ノート』『自信スイッチ 10歳からはじめるポジティブ習慣39』など多数。取材・文/神 素子
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