離乳食が始まると、気になるのが食物アレルギー。アレルギーを起こしたら大変!と神経質になったり、「自分がアレルギー体質だから」と心配するママもいるようです。
いったいその原因は何なのでしょうか?予防法ってあるの?国立成育医療研究センター・アレルギー科の成田雅美先生にお話をうかがいました。
食物アレルギーはなぜ起きるの?
私たちの体には、健康を守るための「免疫」というシステムがあります。たとえば、あるウイルスに感染して病気になると、免疫細胞はそのウイルスを有害と判断し、やっつける武器「抗体」をつくります。
そして2度目にウイルスが体に入ると抗体がそれを察知し、病気を発症させないように働きます。食物アレルギーは、この免疫の働きの誤作動です。本来は体に無害な食べ物を有害と判断し、過敏に反応する状態です。
卵アレルギーを例にとりましょう。初めて卵の成分が体に入ったときには、問題は起こりません。しかし、このときに免疫細胞が「卵は敵だ」とみなして卵に対する抗体をつくると、次に卵と接触したときにアレルギー反応が出ます。
食物が体に入るのは、口からとは限りません。空中に浮遊する成分を吸い込んだり肌にふれたりして、「食べて」いなくても抗体ができている可能性があります。
免疫の誤作動(アレルギー)は、先進国や都市部でふえています。その原因ははっきりとはわかっていませんが、生活環境が関係しているのではないかと考えられています。
日本も昔は衛生状態が悪く、周囲には常に病原菌がたくさんいました。それらと闘うために、免疫システムも常に活発に働いていたのです。
ところが今は清潔になりすぎて外敵が少なくなったため、免疫機能の誤作動が起こりやすくなってしまったのです。過剰な清潔志向が、かえって子どもの抵抗力を弱くしているのかもしれません。
食物アレルギーでどんな症状が出るの?
食物アレルギーでは、さまざまな症状が見られます。次のような様子は比較的軽症で、自然におさまることもあります。
●皮膚/かゆみ、じんましん
●目/充血、かゆみ
●口・のど/違和感やイガイガ感、くちびるや舌のはれ
●鼻/くしゃみ、鼻水、鼻づまり
●消化器/軽い腹痛、吐きけ、下痢
一方で、次のような症状は重症です。急激に悪化することがあるので、急いで受診させてください。
●呼吸器/声がかすれる、のどがしめつけられる、息が苦しい、犬がほえるようなせき、強いせき込み、呼吸のたびにゼーゼーいう
●循環器/脈が速い、脈が不規則、手足が冷たい、くちびるや爪が青白い
●消化器/痛みの強い腹痛、おう吐をくり返す
●神経/元気がない、ぐったりする、意識がもうろうとする
実際の症例写真
※『はじめてママ&パパの 0~6才病気とホームケア』(主婦の友社)より「卵を食べたら口の周りが赤くなった」のがアレルギーなのかどうか、親が判断するのはむずかしいものです。赤ちゃんの肌はデリケートで、よだれや食べ物がついた刺激だけで赤くなることもあるからです。勝手に食物アレルギーと判断して卵を制限しないこと。
もちろん、卵以外の食物も同様です。必ず医療機関を受診し、きちんと診断を受けてください。
食物アレルギーで特に注意すべき食品は?
食物アレルギーを起こす食品で、まず思い浮かぶのが卵。これに牛乳、小麦粉を加えて3大アレルゲンともいわれ、注意すべき食品と考えられています。しかし、これらが特にアレルギーを起こしやすいのかというと、そうとは限らないのです。
卵や牛乳、小麦粉は、どこの家にもありますね。前述したように、これらを実際に食べなくても、浮遊する成分を吸収することで、知らないうちに抗体ができていることがあります。
アレルギーを起こす人が多い食品とは、成分にふれる機会が多い食品、と考えられるのです。暮らしの中でかかわる頻度の問題であって、卵や牛乳の成分が特にアレルギーを起こしやすいわけではない、ということです。
健康な皮膚は体の内と外とを区別するバリアで、食物がふれたぐらいで成分は吸収されません。でも湿疹などのトラブルがあるとバリア機能が働かず、食物成分が吸収されて抗体ができやすくなります。
一方、腸はなるべく多くの食べ物を栄養としてとり入れようとするので、食物成分に対する抗体のつくられかたがゆるやかです。赤ちゃんが初めて卵の成分を体にとり込んだのが腸からなら問題ないのに、湿疹のある皮膚からだと卵アレルギーになる、ということがありうるのです。
ちなみに、妊娠中・授乳中のママが食物除去をしても、アレルギー発症の予防効果はありません。母乳を通じていろいろな食品成分を体にとり入れるのは、むしろ赤ちゃんに有益なこと。免疫システムの誤作動が減る可能性があります。
アレルギー反応を起こした食品
●鶏卵 38%
●牛乳 16%
●小麦 8%
●甲殻類 6%
●果実類 6%
●そば 5%
●その他 21%
食後2時間以内にじんましんやせき、呼吸困難などの症状を起こして医療機関を受診した人の、原因食品の割合です。「その他」には魚類、大豆、ナッツ類、肉類などがあります。
※『食物アレルギー診療ガイドライン2012』(日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会)より
食物アレルギーは治るってホント?
下のグラフは、年齢別に食物アレルギーの割合を示したもの。これを見ると、食物アレルギーは成長に従って減っているのがわかります。調理法にもよりますが、卵アレルギーの約30%、牛乳アレルギーの約60%は3歳までに治り、小学校入学までには多くの子どもが食べられるようになるという報告もあります。
※ 『乳幼児の食物アレルギー対策に関する実態調査(平成27年2月中部管区行政評価局)』の結果を基に編集部がグラフ化したもの。もちろん、食物アレルギーが成人後も続くケースもありますが、赤ちゃん時代に発症した食物アレルギーは、治ることが多いのです。
では、どうやって治すのか。特効薬があるわけではなく、基本は「除去を続ける」こと。消化吸収機能が発達し、免疫システムが誤作動を起こさなくなるまで待つのです。
食物は本来、体に必要なもの。免疫システムの誤作動で食べられないものばかりになってしまっては、生きるための栄養がとれません。そのため人の体は、「口から入ってきたものには、免疫システムをゆるく働かせる」ようになっています。
ママのおなかから出てきて人生をスタートさせたばかりの赤ちゃんの中には、周囲の環境に順応しきれない子もいます。本来は無害な食物にアレルギー反応を起こすのも、そのひとつ。
免疫システムが本来の働きをするようになり、口から入ってきたものをやたらと「敵認定」しないようになれば、食物アレルギーは自然になくなります
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【専門医監修】その予防法、実は逆効果!わが子に食物アレルギーを発症させないためにやるべきこととは?