東京・小金井市、武蔵野の自然豊かな住宅地にある【地域の寄り合い所 また明日】は、認可保育園、認知症対応のデイホーム、地域の寄り合い所の3つが融合した施設。
お年寄りや子どもたちがひとつの空間で、まるで自宅にいるかのように自由にリラックスして過ごしています。夕方には学校から帰ってきた近所の小中学生たちもやってきて、宿題をしたり小さい子を遊んであげたり姿も見られます。
さまざまな世代が共に過ごす風景はどこか懐かしく、お互いに自然な形で関わり合う様子を見ていると、じんわりあたたかな気持ちに。と同時に、今の社会での子育てや人との関わりについて深く考えさせられます。
「また明日」のような豊かなつながりの場がどのようにして作られたのか、何を大切に運営されているのか。代表の森田眞希さんにお話を伺ってきました。
開所できたのは、地域の人々の理解と協力のおかげ
―――「また明日」の保育園には何人の子が通っているのですか?
「うちは0〜2歳の定員12名の小規模認可保育園です。0、1、2歳児と、とくにクラスを分けずにみんなで過ごしています。
開所当初から兄弟の多い家の子たちが入園する傾向があって、入園後に3人目、4人目と出産するお母さんもなぜか多いんですね。そういうわけで、シーツやタオルなどは全部保育園のものを使っていて、洗濯もこちらでしています。持ってきてもらうのは本人のお着替えくらいですね」
―――兄弟が多いと週末の洗濯物の持ち帰りが大変ですしね。
「そうそう、3人分とかを自転車で持って帰るとなると曲芸みたいになっちゃう(笑)。洗濯も面倒ですし、負担が大きいですから」
―――親御さんはとても助かりますね。ところで、この施設は2階建てのアパートの1階を改装されたのですか?
「16年前の開所にあたって、1階の5戸分の壁をすべて取り払いました。それぞれ襖を入れて、閉めれば個室に、開ければひとつの空間になるようにしたんです。普段はとくにスペースを分けていませんので、入り口を入ってしまえば誰がどこにいても自由です」
――開所から16年も経つんですね。
「でもね、まだまだこの地域では新参者なんです。この辺りは昔から代々住んでいる方が多くて、30年住んでもまだ新参者。最初はこの場所を貸してくださった大家さんが、一軒一軒挨拶にまわって私たちを紹介してくださいました。とくに私たちがやろうとしていたのは福祉施設ですからね。子どもたちもいますし、認知症の方のデイサービス対応となると、周囲からいろいろ言われるケースも多いと聞いていましたし。
だからまず開所の9ヶ月前に、自分たちがこの建物の2階に引っ越してきて住民になって、町内会に入れてもらいました。行事に積極的に参加しながら私たちはこういうことをやろうとしているんですと話して、理解を得られる人を増やすことに力を入れました」
―――まずは自分たちを認めてもらえるよう努力されたんですね。
「そうですね。施設の工事がスタートしても、いつでも様子を見に来てください!と全部オープンにしました。
嬉しかったのは、開所した時に『あそこの開所にはずいぶん協力した』という声があちこちから聞こえてきたんです(笑)。それって、それだけ心添えをいただいていたってことじゃないですか。あぁよかったな、と思いました」
さまざまな人がいるからこそ引き出される「自己肯定感」
―――16年もされていると、卒園児も大きくなっていますね。
「開所当時から地域の小中学生も遊びに来ていましたから、もう社会人になっている子もいます。ここでバイトをしている高校生もいますよ。
今日も勤務で入ってくれているのですが、その子は小学生の時によく来ていて、小さい子との関わりが本当に上手だったんです。『将来は保育士だね』なんて言っていたのですが、本当にそうなりたいみたいで。話を聞いていると、私たちに褒められたり頼りにされたりしたことが忘れられないそうなんです」
―――「上手だね」と褒められると純粋に嬉しいですし、それこそ最近よく耳にする“自己肯定感”ですね。
「そもそも日本人は自己肯定感が低すぎますよね。謙遜の文化とは言いますけれど、それにしてもあまりにも低い。
親御さんたちも子どもに“できるところ”ではなく“できないところ”を伝えがちですしね。ここだと近所のおばちゃんとして『助かるわ』とか『すごいね!』とか、どんどん言いますから」
―――今はご近所やお年寄りなど、世代が違う人との関わりが少なくなっています。ママ友のような、似た家族構成の人としか付き合っていない人も多いです。
「似たもの同士だけのグループでいると、どうしても人間って比較してしまいますよね。比較って疲れるし、煮詰まるじゃないですか」
―――確かにそうですね。どうでもいいことまで比べてしまいがちです。
「そういう意味では、ここは比較のしようがないんです(笑)。年齢をはじめとして、さまざまな人がいますから。
そういえば以前、小さいお子さんを連れてよく遊びに来るお母さんがいたんです。そのお母さん、面白かったのが、朝起きて髪型がキマッていると親子広場に行くんですって。同じ世代の人がいるからね。でも、今日ちょっと髪ボサボサだしなぁという時は、ここに来るって言うんですよ(笑)。
笑っちゃいますよね。ここにいるのは私たちスタッフとお年寄りの方がほとんどだし、同い年くらいのお母さんがいたとしても、たいがいそのお母さんも気楽な感じの人ですしね」
―――すごく正直な人ですね(笑)。でもそのお母さんの気持ち、なんとなく分かります。
「『じゃあそこまでして子育て広場にいかなきゃいいのに』と言ったんですけど、ママ友同士の付き合いも大事にしたいそうなので」
―――いろいろ大変ですね…。
「ここに来て、ママ友との付き合いが…とか言ってたら『またなんか言ってるよ』くらいの反応です(笑)。お年寄りに『私たちの頃は食べるのも苦労したのよ、そんなことで悩んでるの?』なんて言われると、あぁそうだなぁって思えますしね。
先ほどの自己肯定感をもつためにも、似たもの同士ばかりでなく、いろいろな立場や年齢の人たちと関わり合ったほうがいいと思います。もちろん、子どもだってそうです」