現代人は鉄分不足とよく言われますが、特に妊婦さんの中には「鉄欠乏性貧血」の人が少なくありません。ひどくなるとお産に影響することもあるため、早めの改善が必要です。
総合母子保健センター 愛育病院名誉院長の安達知子先生に、妊娠中の貧血対策について教えていただきました。
妊娠中、貧血になるのはなぜ?
妊娠初期と末期には、血液検査で貧血の有無をチェックします。妊娠前は貧血ではなかったのに、妊娠が進むにつれ貧血になる人も少なくないようです。いったいなぜなのでしょうか?
赤ちゃんや子宮が大きくなると、体内の血液の量が急激に増えます。最高時でなんと通常の1.4倍に!これは子宮にたくさんの血液を届けるためです。
そのとき、血漿成分(水分)が急激に増えるのに対し、赤血球や白血球の増加が追いつかないため、「血液が薄い状態」になります。もちろん、おなかの赤ちゃんの体をつくるためにも鉄分が必要に。これが妊娠中の鉄欠乏性貧血の主な原因です。
鉄分は、普段でも不足しがちなミネラルですが、妊娠中は赤ちゃんの血液をつくるためもあって、いつも以上に鉄分が必要になります。成人女性の1日に必要な鉄分量は10~11㎎ですが、妊娠中期以降では2倍以上の21.5㎎が必要とされています。
妊娠中の貧血、その症状は?
急激に貧血が進んだ場合は、息切れ、めまい、動悸、立ちくらみなどの症状が見られることがあります。ただし、徐々に貧血になった場合や、妊娠前から月経の時の出血量が多くて貧血だった人などは、体が貧血の状態に慣れてしまい、特に自覚症状を感じないこともあります。
体内の鉄は、血液中のほかに、肝臓に貯蔵されているものがあります。赤血球の鉄が不足すると、体じゅうに十分な酸素が行き渡らなくなり、血液中や肝臓に貯蔵されている鉄から補充されます。その結果、妊娠が進むにつれ、どんどん貧血が悪化します。
ママが貧血でも、よほど重症でなければおなかの赤ちゃんには影響はありませんが、母体にはさまざまな影響があります。貧血がひどいと出産のときの出血量が増えたり、産後の回復が遅れることがあります。
また、母乳の出が悪いなどのトラブルにつながることも。できれば出産前に貧血を改善しておきましょう。
貧血を改善するためにはどうしたら?
妊娠中の貧血対策としては、毎日の食事で鉄分補給を心がけることが第一。体内で吸収されやすいのは、魚介類や赤身の肉、豚や鶏のレバーなど動物性食品に含まれる「ヘム鉄」。
一方、青菜やひじきなど植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」は吸収率は低いものの、各種ビタミンなどの栄養素もとれるのが魅力です。
ヘム鉄と非ヘム鉄、どちらも吸収されにくいミネラルですが、ビタミンCや酢といっしょにとると吸収されやすくなる特徴があるので、さまざまな食材を組み合わせてバランスよくとりましょう。
また、鉄はタンニンと結合すると、腸で消化されにくくなります。緑茶や紅茶などは食後すぐ飲まないように気をつけて。
鉄分を多く含む食材
●ひじき(乾燥・10g)…5.5㎎
●あさり(正味・100g)…3.8㎎
●ツナ缶(味つけ・フレーク/小1缶・80g)…3.2㎎
●がんもどき(中1個・70g)2.5㎎
●牛ひき肉(100g)…2.3㎎
●かつお(100g)…1.9㎎
●きくらげ(10個・5g)…1.8㎎
●高野豆腐(1個・20g)…1.4㎎
※観物はすべて水で戻す前の重さ。
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ひどいときには薬に頼ることも
食べ物だけで貧血が解消されない場合は、鉄剤が処方されることがあります。
鉄剤を飲むと便が黒くなりますが、これは吸収されなかった鉄分が排出されているためなので、心配ありません。貧血を改善するために必要な薬なので、処方されたらきちんと飲みましょう。
ただし、鉄剤を飲むと、胃のむかつきや便秘などの症状があらわれる人もいます。つらい場合は、自分の判断で飲むことをやめるのではなく、必ず受診して医師に相談を。
副作用がつらい場合や、重度の貧血の場合などは、鉄剤の注射や点滴をすることもあります。
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サプリメントのとりすぎで肝機能障害を起こすケースもあるので、医師から処方される鉄剤のほうが安心です。貧血の状態も含め、医師に確認してみましょう。