赤ちゃんにとって、冬に注意すべき病気がインフルエンザ。悪化すると脳症を引き起こし、最悪、命にかかわることもあります。
済生会横浜市東部病院小児科医長、十河剛先生に、万一インフルエンザに感染したらどう対処すべきか、また予防するにはどうしたらいいかをうかがいました。
風邪とインフルエンザ、どこが違う?
インフルエンザウイルスは、寒くて空気が乾燥すると活発になるので、毎年1~2月をピークに流行します。はやり始めるのは多くの年で11~12月。年によっては、4~5月まで流行することもあります。
くしゃみなどでウイルスが空中を浮遊し、のどや鼻などの粘膜にとりつくことで感染します。その感染力は大変強く、短期間で広い地域に広がっていきます。
高熱やせき、鼻水が出るインフルエンザは、「重症の風邪」などといわれることがありますが、実は風邪とはまったく違う病気です。
たとえば、風邪の原因になるウイルスには数百ともいわれるほどの種類がありますが、インフルエンザのウイルスは3種類しかないと考えられています。感染力も、風邪とはくらべものにならないくらい強いのです。
また、インフルエンザにかかると、風邪よりもずっと症状が重くなります。熱は風邪なら38度台の発熱ですむことが多いですが、インフルエンザにかかると39~40度の熱が出ます。
同時に、頭痛、筋肉痛、関節痛、倦怠感などの全身症状が強く出ます。赤ちゃんはこうした症状を言葉で説明できませんが、とても機嫌が悪く、あるいはぐったりするなど、あきらかにふだんの様子とは違ってきます。
脳が腫れて「脳症」を起こすとキケン!
インフルエンザは、悪化するとさらにさまざまな合併症を引き起こすことがあります。特にこわいのが、脳症です。これは、ウイルスによって免疫が異常に活性化してしまい、脳が腫れる病気です。
神経にダメージを与えるため後遺症を残すケースが多く、ひどくなると命にかかわることもあります。単なる風邪ではまず起きない症状です。
感染しないために気をつけたいこと8つ
インフルエンザの予防法は、予防接種を除けば風邪と同じ。ウイルスが体内に入り込まないようにし、ウイルスが活動しにくい環境をつくるとともに、体調を整えて体の免疫力を高めましょう。
人混みに出かけるのを避ける
赤ちゃんはなるべく人混みに連れ出さないのが基本。必要な外出はなるべく短時間ですませて。
インフルエンザの予防接種を受ける
インフルエンザは感染力の強いウイルスです。赤ちゃんだけでなく、家族全員で予防接種を受け、家族同士でうつすのを避けましょう。
接種をしてもかかる可能性はありますし、自費で受けなくてはなりませんが、予防接種をすれば、しなかった場合よりも病気が軽くすみ、重症化しにくいことがわかっています。
また、任意接種ワクチンには、自分が住んでいる自治体から補助が出ることが少なくありません。実際には定期接種と同じように、公費で受けられるケースも多いので確認してみて。
外出から帰ったら大人はうがい
うがいの目的は、のどをしめらせてウイルスの定着を防ぐこと。インフルエンザウイルスは胃に落ちれば増殖しません。うがいできない赤ちゃんは、飲み物でのどを潤わせて。
外出から帰ったら手を洗う
手洗いは、すべての感染症の予防に効果的。帰宅後はせっけんで念入りに手を洗い、手についたウイルスをしっかり落とします。石けんの種類にはこだわらなくてOKです。手のひらだけではなく、ひじまでしっかり洗いましょう。
加湿器などを使い部屋の湿度を保つ
ウイルスは乾燥した環境で繁殖します。室内は加湿器を使ったり洗濯物を干すなどして、湿度を60%くらいに保つのがベスト。
規則正しい生活リズムを心がける
不規則な生活は、体の抵抗力が落ちる原因に。生活リズムはできるだけ規則正しく、早寝・早起きを心がけましょう。
天気のいい日は外で体を動かす
軽い運動には、免疫力を高める効果があります。天気がいい日は近くの公園で、体をしっかり動かして遊びましょう。
食事はバランスよく食べる
体調を整えるには、栄養のあるものをたくさん食べるより、バランスのよい食事を規則正しい時間にとることが大事です。
感染したらどうしたらいい?
インフルエンザのホームケアの基本は、水分補給と安静です。
高熱で汗をかいたり荒い呼吸になったりするので、体の水分がどんどん失われます。おっぱいやミルク、離乳食がふだんと同じようにとれていればいいのですが、これらが減るようならこまめに水分を与えましょう。
ゴクゴク飲めなくてもいいので、少しずつ、何回も飲ませます。スプーンやスポイトを使ってもいいでしょう。
病気になると、「体力をつけなければ!」と一生懸命に食べさせようとする人がいますが、無理に食べさせなくてもいいのです。食欲がないのはせいぜい数日です。ゼリーでも果物でも、赤ちゃんが食べられるものを、食べられる量だけとらせましょう。食べないと病気が治らない、などということはありません。
病気の間はつらいので家の中を走り回るようなことはないと思いますが、「眠らない」と心配する人がいます。安静とは静かに過ごすということで、必ずしも眠ることではありません。
お風呂は体力を消耗しますが、発熱時にはむしろ積極的に入れる文化を持つ国もあります。汗を流すとさっぱりしますから、グッタリするなどの様子がなければサッと湯ぶねにつかる程度に入浴してもいいでしょう。
インフルエンザと闘う環境づくりも大事
インフルエンザウイルスは多湿に弱いので、室内は加湿器を使ったり洗濯物を干すなどして、加湿します。60%ぐらいの湿度が理想的。大人が快適な室温にエアコンを設定し、赤ちゃんの様子を見ながら衣服で調節します。
汗をかかせれば熱が下がるというのは誤解です。やたらとあたためると体に熱がこもり、かえってよくありません。赤ちゃんの顔が赤いときや、汗をかいているときは、衣服や布団を少なめにしましょう。逆に顔色が青く、手足が冷たくて寒そうなときには、1枚プラスしてあたたかくしましょう。
インフルエンザに関するQ&A
Q.抗ウイルス薬のタミフルは、赤ちゃんにも処方される?
A.赤ちゃんにも処方されます。形状は錠剤ではなく粉。以前、異常行動が問題になりましたが、原因はタミフルではないことがわかっています。タミフルの代わりに漢方薬の麻黄湯(まおうとう)が処方されることも。
Q.薄着で過ごせば体が丈夫になって、かかりにくくなりますか?
A.この説に科学的な根拠はなく、寒い季節に薄着で過ごしていても、インフルエンザにかかりにくくなるわけではありません。着せるものは、気温と赤ちゃんの体調に合わせて選んであげましょう。
Q.除菌シートや除菌ジェルに予防効果はあるの?
A.アルコールやエタノールが含まれたものは消毒効果がありますが、これだけでインフルエンザが予防できるわけではありません。基本の手洗いや人混みを避けることなどを徹底し、補助的に使いましょう。
Q.いやがらないなら子どもにもマスクをしたほうがいい?
A.マスクは正しく着用すればウイルスの侵入をかなり防ぐので、予防効果あり。赤ちゃんはいやがったりマスクをなめてしまったりしますが、慣れが大切。1歳前からマスクをする習慣をつけると、意外につけてくれますよ。ただし、窒息や顔色の変化に気づくのが遅れるなどのリスクを理解したうえで、大人がしっかりと子どもを観察することを忘れずに。
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【小児科医監修】子どもが熱性けいれんを起こしたらどうする?知っておきたい対処法 取材・文/村田弥生 イラスト/もり谷ゆみ
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