「自分には関係ない」と思っていても、実は、早産はだれにでも起こりうること。感染症が引き金になることも多いのです。早産にならないように、兆候にいち早く気づくにはどうしたらいいのか、日本早産学会で早産予防を研究している大槻克文先生が解説します。
ママの最大の仕事は、臨月までできるだけおなかで育てること
「早産」ってどういうこと?
おなかの赤ちゃんの体の機能が未完成な、妊娠22週以降から37週未満に出産することを「早産」といいます。ママやおなかの赤ちゃんの状態が思わしくないために、医学的な観点から出産させる「人工早産」もありますが、早産全体でみれば約25%。残りの約75%は、子宮頸管が開いてきてしまうなどの理由によって起こる「自然早産」です。
早産で生まれた赤ちゃんはどうなる?
早産で生まれた赤ちゃんは、子宮の外で生活することができないため、体の機能がととのうまでNICU(新生児集中治療室)での入院生活を送ります。また、妊娠週数が早ければ早いほど、赤ちゃんの体の機能は未完成な部分が多く、たとえば、出生体重1000g未満の超低出生体重児の場合、約20%はなんらかの障害を抱えているともいわれています。
おなかの赤ちゃんにとって、最も安全で快適な場所は?それは、羊水と卵膜でしっかり守られたママのおなかです。赤ちゃんの体の機能が完成する妊娠37週までは、1日でも長く、子宮の中で育てることがたいせつです。
いまや、日本の新生児医療は進歩し、新生児(生後28日までの赤ちゃん)が亡くなる率は世界一低い水準になりました。しかし、その新生児死亡率の約75%を、早産だった赤ちゃんが占めているのです。また、妊娠30週未満で生まれた場合、脳や心肺機能になんらかの影響が残るおそれもあります。
このようなリスクを回避するためには、もし早産になりそうな兆候があったときに、すぐに対処することが重要です。もちろん、早産の原因がすべて明らかになっているわけではありませんが、感染症から始まる早産は、早期発見、早期治療で防げることがわかっています。
この感染症は、だれにでも起こりうるもの。感染症のメカニズムを知り、妊娠経過が順調でも安心しきらないで、異変を見のがさないようにしましょう。
感染症から早産になるメカニズム
早産の原因No.1は〈感染症〉。少しの異変も早めに医師に伝えて
早産を引き起こす原因はさまざまですが、感染症が関連するものが30~40%あるといわれています。
原因となる菌の種類は多いのですが、その代表は腟カンジダ症やガルドネレラなどの雑菌です。これらが腟内で炎症を起こし、それに気づかず放っておくと、子宮頸管、卵膜、さらには子宮内部へと進んでいき、知らず知らず早産へ近づいてしまうのです。
そうなると、子宮頸管がやわらかくなって開いてきてしまったり、卵膜がもろくなって破けたりして、前期破水や切迫早産へとつながり、治療が困難な段階へと至ってしまいます。
この悪い連鎖を、腟炎や頸管炎までの早い段階で断ち切れば、治療することができます。自覚症状がほとんどないのがやっかいですが、おりものの異変やおなかの張りに気づくこと、清潔を保って体をガードすることなどで、忍び寄ってくる「早産」という危機を遠ざけることはできます!
【正常な状態の子宮】乳酸菌がいて、酸性に保たれています〈ラクトバシルス〉という乳酸菌(善玉菌)によって、pH4.0~5.0 の酸性に保たれ、乳酸菌以外の菌(悪玉菌)がふえるのを防いでいます。この悪玉菌がふえてしまうと、腟内がアルカリ性になって、感染症にかかりやすい状態になります。
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【腟炎】腟内に細菌などが繁殖し、炎症が発生腟には自浄作用があって清潔を保っています。しかし、妊娠によって免疫機能が変化すると、細菌やカビが発生しやすい傾向に。症状としては、におう、かゆい、おりものがふえるなど。腟炎は「成人女性の3分の1が経験」しているといわれ、珍しいことではありません。腟炎の中では、腟カンジダ症やガルドネレラなどの雑菌によるものが多く、抗生物質などを使って、妊娠中でも治療ができます。かゆみなどの症状があれば、早めに医師に相談しましょう。
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【頸管炎】炎症が子宮頸管にとどまっている状態腟炎から細菌感染が上へと進んでしまうと、子宮頸管にも悪玉菌がふえて、子宮頸管の内側の壁をおおう粘膜が炎症を起こします。症状としては、おりものの増加など。治療法はさまざまですが、腟内の消毒、洗浄や、抗生物質、炎症を抑える薬を使って治療することができます。おりものの量や色、においなどに敏感になって、少しでも気になる変化があったら、医師に相談するようにしましょう。
ーーここまでで食い止めましょう!ーー【絨毛膜羊膜炎】悪玉菌が子宮内に入り、卵膜まで感染子宮頸管からさらに上へと細菌が進んでいくと、赤ちゃんを包む卵膜まで感染してしまいます。おもに妊娠中期に発症し、妊婦さんには自覚症状がないことも多いのです。自覚症状に乏しく、“症状”としてあらわれたときには、重症化していることもあります。早産のリスクを少しでも減らすためには、一段階前の頸管炎の段階で対処したいものです。「おや?」と思ったら、病院で診察を受けましょう。
ーーこうはならないで!ーー乳酸菌が悪玉菌に負けて、腟内がアルカリ性に変わるころ、白血球が出現!
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悪玉菌を攻撃するだけでなく、子宮頸管のタンパク質も分解してしまう!
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子宮口が熟化して(やわらかくなり)、内側から少しずつ開いてきてしまう!
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【前期破水】卵膜が破れて、羊水が出てきた状態陣痛が始まっていないのに、卵膜が破れて、羊水が流れ出てきた状態です。原因としては、激しい運動や、卵膜が細菌に感染してもろくなったことなどがあげられます。こうなってからでは、早産を食い止めるのがたいへんなのです。
破水すると、卵膜の破れたところから細菌が子宮内部へ入り込み、赤ちゃんに感染してしまうおそれがあります。破水したら、生理ナプキンや清潔なタオルを当てて、すぐに病院へ!
その後は、妊娠週数や子宮内の感染の程度によって、子宮収縮抑制剤や抗菌剤(抗生物質など)を使用しながら、お産の時期を見きわめます。特に、子宮内の感染がある場合は、お産の時期が遅れるとかえって赤ちゃんの状態を悪くすることがあり、そのときは緊急帝王切開によるお産になります。
●切迫早産とは?●妊娠22週以降37週未満で、子宮の収縮や子宮頸管が開くなど、早産につながりそうなサインが起きたけれど、安静や治療によって早産がかろうじて防止できる状態のこと。
切迫早産の原因には、子宮頸管無力症や、多胎妊娠、母体の合併症などがありますが、多くは子宮内や子宮頸管が炎症したことから始まっています。「サイトカイン」という炎症を起こす物質があり、これが「プロスタグランジン」という、子宮を収縮させる成分を作って、陣痛を起こしてしまうのです。できるだけ正期産(37週以降)に近い時期にお産になるよう、病院や自宅で安静にしていなければなりません。
早産を防ぐためにできる3つのこと
早産予防①妊婦健診をきちんと受ける
定期健診ではいつも同じことを検査しているように感じるかもしれませんが、内診では子宮口のかたさを確認し、超音波検査では子宮頸管の長さや胎盤の位置、羊水の量などをチェックしています。これは、妊娠中を無事に過ごし、元気な赤ちゃんを産むためにたいせつなことです。
そのほかの検査には「腟分泌物培養検査」や「クラミジア抗原・抗体検査」など、腟内に細菌やカビがないかを調べるものがありますが、健診のたびに行うものではありません。自分から言わなければ発見されにくいことも多いので、「かゆみがある」「おりものの量がふえた」「おりものの色がいつもと違う」など、少しでも気になることがあれば、医師に相談しましょう。
不安や気がかりを解消できればスッキリしますし、ちょっとした異変を見のがさないことが、早産を防ぐための早道にもなるのです。
●内診●子宮口のかたさや開きぐあいを調べる腟の中に指を入れ、子宮口のやわらかさや、開きぐあいをチェックします。恥ずかしいと感じる人もいるようですが、この方法でなければ、やわらかさはわかりません。痛みを感じる人は、深呼吸して力を抜いて。医師が、気になるところをくわしくみることができるよう、かゆみやおりものに異変があるときは、内診の前に伝えておきましょう。
●経腟超音波検査●子宮頸管が短くなっていないかをチェック腟からプローブを入れ、子宮頸管の長さを測ることができます。通常、子宮頸管の長さは平均3.5~4cm。これより短くなっていると、早産の危険性が高まります。以前は、妊娠初期のみ使われていた経腟プローブでの超音波診断ですが、妊娠16~25 週にも内診と併用することにより、内診で外子宮口が閉じていても、内子宮口が開いていることを発見できるようになりました。早産予防に最も欠かせない検査です。妊娠20週より前に少なくとも一度は検査を!
●腟内分泌物検査●滅菌綿棒を使って腟内の状態をみる滅菌綿棒で腟内のおりものや子宮頸管の粘液をとって、炎症の有無(エラスターゼなど)を調べます。また、善玉菌と悪玉菌の割合を調べたり(腟内細菌培養検査)、腟内の状態が酸性かアルカリ性かを確認したり(pH検査)も。ほかに、感染や子宮収縮によって卵膜に炎症が起こると腟内に流れ出てくる物質(フィブロネクチン)の有無をみる検査などもあります。
(炎症がある場合は…)1. 洗浄をする
2. 酵素を分解する
腟内が細菌に感染している、頸管炎が存在している場合は、腟の中を消毒液や食塩水などで洗浄します。タンパク質分解酵素阻害剤(白血球の過剰な働きを抑える薬)を使うこともあります。
※これ以外の治療法もありますが、産院によって実施されている方法は異なります。(炎症がない場合は…)1. 安静にする
2. 手術(子宮頸管縫縮術)をする
炎症がないのに、子宮頸管の長さが短くなっている場合は、子宮頸管無力症や筋肉の疾患を疑います。状況により、子宮口をしばる手術(子宮口の入り口をしばり、臨月になったら抜糸をして、お産に臨む)をすることもあれば、自宅または入院して安静にすることも。「安静」といっても、症状の度合いには個人差があります。安静が必要になったときは、どういう生活を送ればよいか、医師に確認しましょう。
※これ以外の治療法もありますが、産院によって実施されている方法は異なります。
早産予防②早産の引き金になるリスクを減らす
早産の歯止めをかけるのがむずかしい前期破水や切迫早産にならないためには、体内に悪玉菌を入れないことが重要です。手洗いやうがいで清潔を保つのはもちろん、疲れない、体を冷やさないなど、抵抗力を低下させないように心がけること、これはかぜの予防と同じです。
つまり、早産につながる芽は、日常生活にひそんでいるのです。妊娠経過が順調であっても、体力に自信があっても、油断は禁物。忙しさから、いつもと違うおなかの張りに気づかないことだってあります。
また、前回のお産が早産や切迫早産だった人は、今回も早産になる可能性が通常の2.5~8倍といわれていますし、前回のお産が短時間ですんだ人は、次は早産になる傾向がある(早産体質)という印象もあります。
過信して、食べすぎたり運動しすぎたりでは、自分から早産に近づいていくようなもの。もう一度、毎日の生活を振り返ってみましょう。
●おなかの張り●張りを感じたら横になり、自然におさまるのを待って。安静にしてもおさまらない、出血や痛みを伴う、いつもより張りが強いような場合は、すぐに受診を!
●疲れ●精神的にも体力的にも無理をするのは禁物。疲れたなと思ったら、横になって休みましょう。夜には十分な睡眠をとり、1日の疲れを回復させましょう。
●強いストレス●妊娠するとストレスを受けやすいうえに、仕事や家庭などのショックやストレスは早産につながりやすいとも。日ごろからストレスをためないことがたいせつです。
●おりものがいつもと違う●おりものの量、色、においなどは、異変にいち早く気づくためのバロメーター。妊婦さん自身の「いつもと違う」「なんか変!」という感覚が頼りなのです。
●冷え●体が冷えると血液の流れが悪くなって、おなかが張りやすくなります。暑い季節でも薄着は避けて、冷房や冷たい飲み物で体を冷やしすぎないように注意して。
●腰が痛い●腰やおなかに感じたことのない強い痛みがあったら要注意。妊娠中は腎盂腎炎などの尿路感染症にかかりやすく、それが“腰痛”としてあらわれることもあります。
●タバコ●タバコを吸う人は吸わない人より、早産を起こす割合が約3倍も多く、出生体重が少なく、奇形の発生率が高いという報告もあります。妊娠したら必ず禁煙しましょう。
●アルコール●アルコールと早産の関連性ははっきりしていませんが、おなかの赤ちゃんは代謝が未発達のため、母体からの影響を受けやすいことは確実。妊娠中は禁酒を!
早産予防③私はだいじょうぶ!と油断しない
油断をすれば、だれでも早産を招いてしまう危険性はあります。早産を自分から遠ざけるためにも、3つの“すぎ”を撲滅しましょう!
●食べすぎ●体重をふやしすぎるのはよくありませんが、体重や体型を気にしすぎて“やせすぎ”のママも早産になりやすいといわれています。たいせつなのはバランスよく栄養をとることです。
●医師に頼りすぎ●自転車に乗りたい、旅行したい…でも「本当はよくないのかも」と不安がよぎったなら、やめること。医師に頼りすぎず、元気な赤ちゃんを産むにはどう行動すべきか自分なりに考えましょう。
●動きすぎ●安定期に入ると、自由に体を動かせるぶん、無理をしてしまいがち。ウオーキングやマタニティビクスを楽しむことはよいことですが、体に負担がかかるほど頑張りすぎないで。